2019年7月17日水曜日

AIA 2019 Collaborative Achievement Award授賞記念イベント参加とニューメキシコの旅 

2019年6月5日(水)~6月14日(金)

建築と子供たち提唱者のアン・テーラー先生が、AIA(アメリカ建築家協会)の2019Collaborative Achievement賞を授賞されました。
建築と教育のコラボレーションの重要性を説き、建築デザインを活用した学際教育の方法論を構築され、50年にわたって活動されてきたテーラー先生が授賞されたことは、先生に教えを受けながら活動を進めてきた建築と子供たちネットワーク仙台にとってもこの上ない喜びです。
ネットワーク仙台メンバーは、先生の授賞記念講演を間近に見聞し、授賞のお祝いをするため、ラスベガスに駆け付けました。
 ラスベガスでのイベントに参加したあとは、酒井敦子さんや「建築と子どもたちデザインLABO関西」とともに、先生がお住まいになり、活動の拠点にもなっているニューメキシコを訪ね、建築と子供たちを育んできたニューメキシコの人々と交流し、環境を体感してまいりました。

<パート1 ラスベガス編/65日(水)~68日(土)>
■ AIA大会EXPOと授賞者レセプション/66日(木)
 5日、成田を出発しシアトルを経由して、夕方ラスベガス・マッカラン空港に到着。空港内に置かれている多数のスロットマシンが私たちを出迎えてくれました。夜、テーラー先生に再会しました。先生は、車でアルバカーキからアリゾナ州フラッグスタッフまで4時間。フラッグスタッフに1泊したあと、さらに4時間かけて娘さんたちと一緒にラスベガスに到着したのです。2013年にニューヨーク州でお会いしたときと変わらずお元気そうで86歳になられたとはとても思えませんでした。
6日、先生と娘さんたち、酒井さんとともに、コンベンションセンターで開催されたAIA大会EXPOへ。広い会場には、緑化屋根や緑化壁、日本のメーカーと協働で開発した木材加工の外壁材などの展示があり、環境に配慮した様々な建築工法や材料が目を引きました。
その後、午後7時半からの授賞者を招待したレセプションに参加させていただきました。会場はクリーブランドクリニック/ルー・ルボ ブレインヘルスセンターのイベントホール。なかはグリッド状の骨組みがクネクネと絡み合った不思議なドーム空間。その形がそのまま外部にも表れています。フランク・ゲーリーの設計によるこの建物は、アルツハイマー症やパーキンソン病などの脳疾患のための治療と研究を目的に2010年に開設されたということをのちに知り、あれは脳の構造をイメージして表現されたのではないかと思いました。

大勢の参加者が見守るなか、会場のスクリーンには、Gold Medal(リチャード・ロジャース)、Topaz Medalion(トシコ・モリ)など各賞の授賞者の方々とともに、2019 Collaborative Achievement Awardを授賞されたテーラー先生のにこやかな笑顔が映し出されました。その映像を見ながら、先生はじめ出席した皆さんと授賞の喜びを分かち合いました。
スロットマシンが並ぶマッカラン空港
ホテルから見たラスベガスの街並み


受賞者や招待客で賑わうレセプション会場

2019年7月14日日曜日

■ フーバーダム見学とシルクドソレイユ“O”観劇67日(金)
7日の午前中はバスツアーでフーバーダム(国定歴史建造物)へ。ネバダの砂漠を走り、途中ボルダーシティという町を抜けて1時間半ほど走ると、眼前に巨大なダムがあらわれました。切り立った岩山に挟まれ、はるか下を流れるコロラド川。ボルダー峡谷(ブラック峡谷)と呼ばれるこの地にダムを造ろうとした目的は、コロラド川流域州の水利権調整とコロラド川の氾濫対策だったそうです。1931年に着工し、1935年竣工したアーチ型重力式ダムで、高さ221m、長さ379mの威容を誇ります。貯水量は約400t(日本にある2500基のダムの総貯水量が約250t)、コロラド川をせき止めて造ったミード湖は全米一の人工湖といいますから、いかに巨大かがわかります。ダムは、ネバダ州とアリゾナ州にまたがって建設されており、現在、ネバダ、アリゾナ、カリフォルニアの各都市に電力と水を供給しているそうです。
このダムは、ダム湖にある4基の取水塔から水を汲み上げ、地中にある配管を通して水を落とし、その力でタービンの羽根を回して発電するシステムになっています。ツアーでは、ガイドの説明と、ダムの構造や発電の仕組みを解説する模型やパネルにより、いかに難工事だったかを知ることができました。ロッククライミングのようにロープで体を縛り付けて作業したことや、打設したコンクリートの発熱量が大きく、そのままにしておくと熱が冷めるのに100年位かかるため、大量の氷で冷やしながら打設したという逸話もうかがうことができました。工事中コロラド川の水を迂回させるために岩山を削って掘られたトンネルが、現在はツアールートになっています。ここを歩くと、間近に迫る岩がゴツゴツと荒々しく削られているさまを見ることができます。当時の人々の苦労が忍ばれました。
発電施設の内部も見学。タービンの羽根は地中にあり見ることはできませんが、タービンの上部がずらり並ぶさまは壮観でした。

ダム下流には、コロラドリバー橋(2010年竣工のコンクリートアーチ橋/大林組と他社のJV施工)が架かっています。ここを渡ることができるというので行ってみましたが、体が飛ばされるのではないかと思うほどの強い風で、おまけに「(脇の高速道路を走る車から)小石が飛んできてあなたを殺すかもしれないので気を付けるように」との看板を見てあきらめました。
取水塔4基で水を汲み上げている
上からのぞくと発電施設が小さく見える
コロラド川の水を迂回させたトンネルを歩く
タービンが並ぶ発電施設
ダムの下流に架かるコロラドリバー橋

■ シルクドソレイユ“O”観劇/67日(金)
午後6時半からは、ベラッジオホテルの劇場で行われたシルクドソレイユ“O”を観劇。
「水」がテーマのこの演目はラスベガスのこの劇場でなければ見ることができないそうです。何よりびっくりしたのは、突然ステージが無くなってプールになってしまう舞台装置でした。しかも、ステージが全部なくなって全体がプールになったかと思えば、ステージが分かれて一部が残り、その他はプールになったり、そのプールも、水深が浅くなったり深くなったり、演技に合わせて自由自在に動くのです。そのなかで息をもつかせぬパフォーマンスが繰り広げられました。天井から吊るされた船の形をした装置をシーソーのように左右に動かし、アクロバットをしながら次々に下のプールに飛び込むシーンでは、一歩間違えばプール脇のステージに落下してしまいそうで、ハラハラ、ドキドキの連続でした。プールには動く船や島が登場し、その上でアクロバティックな演技が行われる一方で、そうした船や島を、酸素ボンベを背負いながら水中で支える人たち、泳ぎながら動かす人たちもいます。
フィナーレ、舞台に一列に並んだ出演者たちに向けて万雷の拍手がおくられました。
終演後はもうひとつのショー、ホテルの前で行われている噴水ショーで夜のラスベガスを楽しみました。
シルクドソレイユ“0”の劇場入り口で
噴水ショー


2019年7月12日金曜日

■ 授賞記念講演会と昼食会/68日(土)
 午前10時半から、ウエストゲート ラスベガスリゾート&カジノを会場に、クレッグ・ブレント氏(AIA全米デザイン委員会表彰部会副部会長)による司会のもと、2019 Collaborative Achievement Award授賞者の方々によるプレゼンテーションが行われました。
この賞は、建築家が外部の専門家等と協働して、市民の生活空間をよりよいものにした功績を表彰する制度で、授賞者は以下の3名の方々です。

1.アン・テーラー博士:AIA名誉会員、建築と子供たち創始者、ニューメキシコ大学名誉教授、スクールゾーン インスティチュート主宰
2.ヤン・ゲール氏:AIA名誉フェロー、前デンマーク王立芸術アカデミー都市計画学教授、建築家/アーバンデザインコンサルタント、ゲールアーキテクツ共同設立者/現シニアアドバイザー
3.マイケル・ソーキン氏:建築評論家、ニューヨークシティカレッジ大学アーバンデザイン大学院ディレクター、マイケルソーキンスタジオ設立者、NPOテレフォーム(アーバンデザイン研究)主宰

 ヤン・ゲール氏は、1962年にコペンハーゲンにおいて、駐車場と化した道を歩行者と自転車のための空間に改善するプロジェクトを開始。以来、コペンハーゲンの街は車から人を優先する都市空間へと変貌を遂げているそうです。その後、ロンドン、ニューヨークなどの世界各都市で、同様のプロジェクトに数多く携わってきた事例を紹介しながら、建築家は、人間のための公共空間をデザインすることを大切にしてほしいと講演されました。
マイケル・ソーキン氏は、「建築の最終的な利益を受けるべき相手は公共であり、それに必要な協働、社会活動が必要であるのに、その目的を忘れ、建築のための建築デザインになってしまっている。その結果、デザインの調停が必要になるというような状況が生まれている。そのようななかで、私たち建築家はどのように外部の人たちとコラボするべきなのか?」と会場参加者に問いかけながら、建築を通したコラボレーションの本当の意味とは何かについて講演されました。

テーラー先生は、建築と子供たちという、学習環境と教育法に関する研究のきっかけについて、「浜辺を子供たちと一緒に歩いていたとき、子供たちは貝殻を拾って大切そうにしまい込む一方で、いくつかの貝殻を捨てていることを目にしたことで、『子供たちは、環境に対して美的判断をする力を自然に備えている』ということを学んだ」ことを紹介しながら、以下のように建築と子供たちの哲学や目的と、建築家の役割について講演されました。

1.環境から離れるのではなく、環境の一部としての人間であることを理解し、子供たちにもそのことを教えなければならない。
2.「子供の頭の中はコンパートメントのように分かれているわけではなく、全体的に動く」という児童心理学者ピアジェの言葉のように、国語や社会や数学や理科など教科ごとに別々に教えるのではなく、横断的に総合的に教えなければならない。建築と子供たちはそのためのツールである。
3.ランドスケープなどの環境は総合的な学習に役立つ。建築家は、そうした環境を学習の
ツールとして子供たちが学ぶことができるように自分たちのデザイン知識を使うべきである。

4.地域の文化は、学校建築や 総合的学習のカリキュラム開発のための基本となる。
5.建築家は、建築家が使う道具、ライトテーブルなどの備品、展示スペースがあるなど建築設計のスタジオのように教室や学習環境をデザインすることが大切。
6.建築家には、建築を使った学習法を学ぶための教師向けの研修を行う役割を担ってほしい。

最後に、アメリカとメキシコとの国境について、壁を造るのではなく、2か国の人と文化の交流センターを造ることを提案して締めくくりました。


建築と子供たちについて講演するテーラー先生
先生の右側に、ゲール氏、ソーキン氏、司会のブレンド氏が並ぶ
子供たちは浜辺で貝殻を拾い集めながら、美的判断を下している
「総合的な学習モデル」
・環境から離れるのではなく、環境の一部になる
・国語や社会や数学などバラバラに学ぶのではなく、横断的に総合的に学ぶ
地域の文化は、学校建築のデザインやカリキュラム開発の基本となる
右下写真は、2002年の仙台市立南小泉小学校6年生の地下鉄東西線プロジェクト
ライトテーブルを使ってレオナルドダヴィンチの自画像をトレースしながら、
線や図を描く練習をする小学4年生
建築と子供たちの展示
持ち運びができるロール状の展示パネルになっている

講演会終了後、テーラー先生のお招きによる昼食会(会場:マッジャノズ リトルイタリー)が開かれました。この会には、リン・テーラーさん(2013年ニューヨーク州ケープヴィンセントで宿泊したメープルグローブのオーナー)、先生の娘さんたちとお孫さん(メレディスさん、キムさん、スージーさん、キムさんの娘さんのマライアさん)、アルバカーキの小学校教師オースティンさんとカタリーナさんご夫妻、AIAアルバカーキ支部事務局のジェンさん、酒井さんなど17名と、講演会の司会者クレッグさんも参加し、テーラー先生を囲んで歓談。建築と子供たちといろいろな人たちとのつながりが少し見えてきました。娘さんたちは、子供のころから資料づくりなどテーラー先生の手伝いをしてきたそうで、ご家族のサポートが大きかったのだと知りました。
夕方、ラスベガスからアリゾナ州フェニックス経由で、アルバカーキに移動。夜、空港近くのホテルに到着。少し前に着いていた、建築と子どもたちデザインLABO関西のメンバー2名と合流しました。