2021年12月25日土曜日

ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021 ~オンラインでつなぐ建築と子供たち~③ 講演 part2

 ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021
~オンラインでつなぐ建築と子供たち~

2021年10月24日(日) am9:30~11:00 


< 講演「建築と子供たち~創造性を育む教育法について考える~」part 2 >


●スタジオ:創造的な教育とその環境

次に創造的な教育に必要な環境とは何かと言いますと、スタジオ形式のものを建築と子供たちは利用しています。子供たちが中心で、教える側は、先生というよりファシリテーターとして、子供たちの行動をサポートしてあげるということが多いです。


●親としてのアプローチ

 ここからは、2019年の大阪のワークショップのときの質問内容も取り込んでいます。親として何ができるのかという質問がありましたが、どうやって子供が遊べる環境づくりができるかを考えてほしいと思います。それから遊びの楽しさですね。子供は勝手に好きなようにできます。それをなるべく触らずさせてあげる、失敗させてあげる、失敗を恐れない、失敗したらそこからどうやって戻せるのか、先に進むかを教えてあげないといけない。そして自分たちで行動し、判断してもらって、それがよかったのかどうか考えてほしい。そのためには、子供の話を聞いてあげたり、子供なりの理屈を聞いてあげたり、そういうことがとても大切です。そして、子供の違う面、成績表の5科目で見えないものを見て、それを少しずつサポートしてあげる、例えば考え深さとか、共感力とかを見てあげる、そういうところに面白みがあると思うのです。

アルバカーキのサマーキャンプで

●子供と環境:デザインプロセスと思考
子供というのは、私たちが思う複雑な環境は見えていないと思うのです。私たちは、空間とか環境といった漠然としたコンセプトを、生まれてすぐ把握できるわけではありません。以前、幼稚園のプロジェクトで、4−5歳の子供たちにカメラを渡して、私はその後ろからついていきました。ブロックの間を行ったりして、大人みたいに真っすぐ歩かないのです。
そこで気づいたのは、子供はモノとか人を中心に見ているということです。先ほど話したネガティブスペースは見えていないのです。自然環境とか文化的環境とか、そういう複雑なものになると、すぐ学べるというわけではないのですね。ですから、敷地の分析をする、観察する、データを分析する、研究する、アイデアを出してまとめる、問題解決をするというデザインを通して、モノから内部の空間について、または文化的なものを学んでいくわけです。そうしたデザインプロセスを学ぶことによって思考力も養われます。デザインの力というのは、考える力でもあるのです。このようにして複雑な環境というものを子供たちは理解できるようになると思います。
デザインプロセスを学んで思考力を養う


●建築と子供たち体験による子供たちの変化のエピソード
ニューメキシコ州立大学付属幼稚園で、4~5歳の子供たちに紙の構造を学ぶというプロジェクトを行いました。4~5歳に建築を教えるのはとても難しいことです。最初の1年はかなり苦労して、はじめの30分は名前を書くだけで終わったこともありました。ある男の子の作品は、筒になっている上の棒が伸びたり下げたりできるのです。難しそうだったので、手伝おうか?っていったらダメって言われて、絶対触らせてくれませんでした。でもその日、家に帰ると、仕組みを親に話しだしたらしくて、次の日、お母さんが、何があったのかとびっくりしてやってきました。建築と子供たちでよく驚かれるのが、子供たちが自分の作品について、いかによく話せるかです。よく「うちの子、こんなにしゃべるとは知らなかった」という方が結構います。

●教育とのかかわり:体験と教育
建築と子供たちは、教育につないでいけば深みを出すことができます。例えば、橋を作ったとき、橋が壊れるまでテストをして、単に面白かったという体験だけで終わらせることもできるし、そこから一緒に絵を描いて、どこが弱かったのか、どのように壊れたのか、どのくらいの重さに耐えたのかなど分析できるように指示した場合では子供たちの学びの内容はかなりかわってきます。
どこまで、何を学ばせるかを、私たち教える側がしっかり考える必要があります。
橋を壊すテストをしたあとに、どこが弱かったのかなど分析させると学びの内容が深くなる

●ワークショップの心がけ、工夫、ポリシー
ワークショップの心がけとしては、何をしようとしているのか、何が一番大切なのか、何を学んで体験して考えて制作してほしいのか、ということを子供たちに伝える必要があるということと、教師としてより、ファシリテーターとして行動することです。そうするためには、子供もファシリテーターもお互い考えていること、意図を伝えなければなりません。それは面白いことでもあり、難しいところでもあります。子供に行動させる、決断してもらう、責任をとってもらう、それをあとで判断してもらう、それがとても大切なことだと思います。
そして自分だけで解決できないところはみんなで協力してチームワークを通して考えてもらいます。

工夫やポリシーとしては、
  • アン先生は、鉛筆を使わせません。子供は失敗を恐れて、消す方に力をいれてしまうので鉛筆を渡さず、マーカーを使わせます。そうすることで自分の考えの記録、学んだ記録を残すことができます。
  • トレーシングペーパーを利用してアイデアを重ねることを学びます。
  • 言い方を良く考えないといけません。例えば、橋のデザインだったら、「橋をデザインしてね」と伝えると、ゴールデンゲートブリッジとか今まである橋を利用しようかなと考えてしまう。例えば「AとBを渡すものを考えてね」と言うだけでも子供の出来具合がかなり違ってきます。
  • 絵が難しいという子供もたくさんいます。ところが模型を作り出すと模型のほうがやりやすい。模型ができたら絵に戻すとかいろいろなやり方があります。今まで子供が表現できなかったことを、3次元をうまく利用することで表現ができるようになります。
  • 色はとても大切です。特に小さい子供にとって色があったほうが良いときと、悪いときがあります。色があると色だけに執着してしまうこともあるし、色がないほうがわかりやすいときもあります。

●ネイティブアメリカンの建築と子供たちプロジェクト
コチティプエブロ「ネイティブ語サマースクール」
建築と子供たちには、基本版があるのですが、プロジェクトによって違うものができます。環境について教えたり、デザインを教えたり、またはデザインプロセスの一部であることもあります。例えば、ニューメキシコには、ネイティブアメリカンが結構いますので、その人たちと一緒にワークショップをやる機会がありました。
サンタフェとアルバカーキの間にコチティプエブロがあります。このプエブロでは、プラザを囲んで住んでいたのですが、ある時期、アメリカ政府が新しい家を建てるというサポートをしたため、みんな外に出て行ってしまったのです。そして、みんなが集まるための伝統的なプラザが段々利用されなくなり、修理もされなくなってひどい状態になっていきました。ニューメキシコ州立大学の建築家や都市・地域計画家たちが手伝って、それを直すにはどうしたらいいかを地域の皆さんと考えていったのですが、そのなかで未来の子供が何をしたいのかという話になって、建築と子供たちの私たちが呼ばれたのです。
アドビ建築のコチティ教会

このワークショップは、言語を教えるのに使ってほしいということでした。
2週間のプロジェクトでしたが、最初の週は、ネイティブ語のサマースクール用のプログラムを先生と一緒に作ってほしいということでした。ところが、実際にネイティブ語について先生方によく聞いてみると直訳がないのです。英語をそのまま利用していたり、家の部位を表す言葉はスペイン語でした。しかも、ネイティブ語は聖なる言葉なのでだれも書いてはいけないというのです。そういう難しい制限がありました。仕方がないので、英語で書いてどんなものに直訳があるのかを皆で話し合いました。例えば丸という直訳はあるけど、四角がなかったのです。じゃあどうやって表現するかとなって、年配の先生が「four corners」と提案しました。そのようにどんどん作っていかなければならないという状態でした。書かないものですから、オーラル・ヒストリー(口述歴史)がよく利用されるのですが、昔の話を年配の先生方から教えてもらい、それを聞きながらダイアグラムに表現して、今と昔の生活の違いについて考えたりしました。コチティプエブロは、芸術的な人たちが多くてとても楽しかったです。
このプロジェクトでは、伝統的な建物の作り方も習いたいということで、子供たちに紙でアドビ建築の模型を作ってもらい、さらに現代の生活とどう合体できるかということをデザインしてもらいました。伝統的なものは茶色の紙で作り、それをいかにモダン化しているかということを考えて、そこは違う色で表現してもらいました。

ズニプエブロ「メインストリート・サマーデザインキャンプ」
ズニプエブロは全然違ったプロジェクトです。このプエブロのメインストリートをもう少し工夫したいということでした。というのは辺ぴなところなので、人がどんどんいなくなってしまったのです。若い人たちがほかに仕事を見つけてプエブロから出て行ってしまうのでプエブロにビジネスを持ってきたい、それにはメインストリートを充実させたいという目的で、子供たちに考えてもらう5日間のサマーキャンプを行いました。
 パターンを使ってファサードをデザインしたり、公園のデザインをしたり、ズニアーティストのための多目的建築デザインモデルというのを子供たちに作ってもらいました。コチティと同じように茶色で伝統的な建物のファサードを作り、内部の壁画とかをモダンにしてほしい、そういう形で作ってもらいました。全部で4つのネイティブアメリカンのプロジェクトがありましたが、このズニとコチティプエブロが一番記憶に残ったプロジェクトです。

●創造力とは?
創造力というと、アイデアが一瞬にしてひらめくというように思われるかもしれませんが、何かを構築する力、想像する力、想像したものをまとめる力、見えないものを形にする力など、次のような様々な能力を駆使しようとする力と考えられます。
  • 行動力:デザイナーでも日々訓練しているし、長年かけて創造力を養っている
  • 何かを構築する力(見えないものと、見えるものの両方を含む)= デザイン力
  • 想像力(ないものを夢みたり、現状で満足せず次を探したり、改善することができる)
  • 収束的および発散的思考(いろいろなアイデアを出し、物ごとの詳細を考慮しながらも、シンプルに全体をまとめることができる)= 量産、スピード感、効率性
  • 観察力(見ることや感じることを大切にし、状況を把握することができる)
  • 形にする力(見えないものを、自分や他人に見えるようにすることができる)
  • 企画力(段取り力と計画性がある)
  • 問題解決力(問題を解決するだけでなく、利用することができる)
  • 柔軟性(曖昧なことやわからないことがあっても物事が進められ、様々な試行錯誤ができる)

●評価
そうした力をどのように評価するかというと、アン先生は、コミュニケーション力、想像力・革新力・創造力、プロセスの理解、細部と全体の美しさ、技術力など5項目の評価基準を挙げていて、それを建築と子供たちのポートフォリオアセスメントと呼んでいます。そこには1から5までの評価の段階があります。

このあと酒井さんから何か質問がありますか、との声掛けがあり、質疑応答を行いました。

●質疑応答(抜粋)
Q: 大人になっていくプロセス、あるいは大人が学び直すプロセスに言語化は大事だと思うが、これまでの経験から何か気が付かれたことがあれば教えてほしい。
A: アメリカは言葉で出来ている社会なので論理的に話せないと話にならない。幼稚園から、話して要求するということをしっかり教えている。オーナーズカレッジでは、私も医大志願者の推薦状を書き、学生も(志願書や奨学金申込書など)ものを書くことによって奨学金が得られたりするが、論理的に書くことができなければそれを得ることができない。日本が国際社会の中で成功したいとか、お互い理解してもらうためには言語化するということを学ばなければならないと思う。   
視覚も言語の一部であり、3次元の模型も言葉であるということを理解してどれをうまく使うかによるだけで、合体することもできるし、模型だけにすることもできる。3次元、2次元、言葉の3つ全てを表現するということが建築の強みであり、そこが教育の部分になると思う。

ミーティング終了後、参加した皆様からアンケートをいただきました。その結果を受けて酒井さんからお手紙を頂戴しましたので以下に紹介いたします。

アンケートから(抜粋)
  • アメリカ、日本国内で、活動している方々をzoomでつないで、話を聴くことができてよかった。
  • 建築と子供たちの理論的バックグラウンドが分かり、とても有意義でした。
  • 酒井さんの講義は私にとってこれからの未来へのワクワク感が高まりました。いろいろなアイデアを駆使しながら私もチャレンジしてみようという気になりました。
  • とてもいい勉強になりました。「建築と子供たち」の教材というかワークショップの内容がデザイン系の勉強にとどまらず、自己表現の練習、社会観察力の育成にもつながる内容であることを改めて理解しました。
  • 参加させていただきありがとうございました。とても勉強になりました。ワークショップ参加者のコメントが本当に参考になりました。
  • 4名の発表者はそれぞれの立場からの観点から実践された内容で、それぞれ特徴があって大変興味を持って拝見しました。
  • 五感を研ぎ澄ませること、立体などの3次元表現、図やスケッチなどの2次元表現、言葉などの1次元表現の意味を発見し、互いにつなぐことが出来ることなど身近な工夫で創造性の世界が開けることが深く確認できました。
  • ワークショップの発表と講評で、次につなげるための意見を聞けてよかったと思います。そして、後半はとても為になる講演でした。今後は、勉強会として、指導者や専門家向けのワークショップとして続けていけるとよいなと感じました。
  • 私は、現在中学生を対象とした模型を使った建築教育の研究を行っています。酒井さんの話を聞いて日々の生活から「観察」、「言語化」、「表現」に関する意識が大切だとよくわかりました。酒井さんは表現と言語化を結び付ける方法として特に工夫されていること何ですか?教えて頂けると助かります。
  • 「言語化する」大事さにとても共感しました。ある方の講演で「語彙力は人生を表す鏡」であると発言されていました。講演内容で写真の説明をされたのですが、平易な言葉で意図することをわかりやすく説明されており、共感が得やすかったことを思い出します。描いたことを動詞化するという分析も、客観的に見返すことができるいい手法だと思いました。貴重なお話、ありがとうございました。
  • アメリカで子供の頃から論理的に説明する訓練が学校教育でなされており、論理的に話せないと良い職が得られないという点が新しい気づきでした。そのため、デザインのプロセスを言語化する訓練がとても重要なのですね。日本とは育てる力の入れどころが違っている点に気づかされました。国語との横断的学習が興味深かったです。
  • オンラインの内容が大変濃い内容になったことがすごくうれしかったです。オンラインワークショップの受講者の方々の多方面からの感想をお聞きし、改めて夏から秋にかけてやれることに挑戦した結果、こんなにいいものになったんだと自覚しました。
  • 貴重な機会に参加させていただきありがとうございました。前回までの三度の受講も大変楽しかったです。
    今回は、建築と子供たちについてや、プログラムのことも知れて、また更に興味がわきました。特に海外(アメリカ)では子どもの頃から【言葉で説明したり、要求を伝える力をトレーニングする】ということに、衝撃を受けました。意見や考えを堂々と話せるのは、気質からくるものだと思っていたので。プログラムを終えた幼児が【話す言葉が増えた】ことにも驚きました。この先、息子や子供たちと触れ合う際には、これらを意識して接したり、遊びの中で取り入れてみたいと思っています。
  • 環境の一部である「自分」と、「社会」をインタラクティブに結び他との関係を構築するために、言語と2Dと3Dを使って表現していく。その術を学んでいく。「一部」の自分はNegative Spaceを含めた他を慮るスチュワードシップを身に着けることが大切。今、大人ばかりでEUの連中と話し合いをする際に、彼らは2Dと言語化が得意なのですが、3D化や非言語化(多言語故の苦労があり、例えばPictgramなどを用いたシンボル化)が苦手で、日本に対しては「我々にはない、独特の感性があって尊敬している」と言ってくれる方も西洋人にはおります。意見交換でもありましたが、大学生どころか、大人にとっても自分の視点を定め視野を広げるデザイン教育としての「建築と子供たち」のプログラムは、世代を超えて有意義なのではないかと、あらためて実感しております。本日はたいへん意義深い貴重な午前の時間を共有させていただき、誠にありがとうございました。
  • ワークショップを体験してからの酒井さんの講義へと繋がる流れは、普段直接あまりワークショップに関係していない私にとっては大変貴重な体験でした。
    酒井さんの講義の中で、ネイティブアメリカンの言葉には「四角」という言葉が無い、概念がなかった、ということに一番驚きました。自然界や生物には、あまり四角いものがないからでしょうか。大きな建物や集落が形成されていくにつれて出てきた概念なのかもしれませんね。
    そういえば、大学時代に聞いたことですが、目の細胞を研究していた生物学科の友人が、ネイティブアメリカンは目のナナメ細胞が発達していると言っていたことを思い出しました。これは、人間の目の細胞は、発達の段階で普通はまず水平を認識するようになり、次に縦の線を認識するようになり、最後にナナメの線を認識できるようになって「奥行き」を獲得するらしいのですが、ネイティブアメリカンは視細胞の出来る順番が少し違うらしく、水平→ナナメ→縦と発達しているらしいということでした。「四角」という言葉が無かったことと併せて、発達上の空間認識が環境によって大きく異なるのだと改めて思いました。同じような事として、日本人の「間」の概念のお話ももう少し詳しく聞いてみたかったです。西洋の文化ではあまり「間」が大事にされないとのお話でしたが、イスラム系の建築では世界最古の大学、アルハンブラ宮殿、塔を四隅に建てることによる聖なる空間を作る手法など、物体そのものよりは、その「あいだ」の「ま」を中心に捉えているのではないかと感じていました。どこでその違いが生まれたのか、文化的な背景を知りたい所です。さらに、酒井さんの言われた日本的な「間」の捉え方が中国経由なのでしょうけれど、そのイスラム系の空間認識の延長にもしあるとすれば、イスタンブールを東洋と西洋の境目にしたことと何か関係が出てくるような気もしましたがいかがでしょう。

酒井敦子さんからのお手紙
10月24日は、お忙しい中お集まりいただき、どうもありがとうございました。新しくご参加いただいた皆さま、はじめまして!懐かしい皆さま、久しくご無沙汰しておりました。2019年以来、コロナで一時帰国もできない状態でしたが、こうして、オンラインでお会いでき、大変嬉しかったです。
そして、ご丁寧にご質問・感想・あたたかいお言葉どうもありがとうございました。いろいろなアイデアや思いがあり、とても参考になりましたし、次は、皆さまの活動内容やアイデアをシェアしていただき、一緒に話し合いたいとも思いました。
ここ2年、付け焼き刃状態ではありましたが、大学でもオンライン教育について学び、体験しました。確かに、対面でしかできないこともたくさんありますが、オンラインの良さも少しわかるようになりました。大阪・仙台チームの皆さまのおかげで、こうして、建築と子供たち関係のオンラインワークショップや交流会の機会が設けられ、お互いの場所に限らない交流も可能になったのは、とても嬉しいことです。
現在は大学の仕事が手一杯で、なかなか建築と子供たち関係の活動まで行き届いていませんが、幼稚園や小中高の子供たちに教えた経験や学びが、医大を目指している学部生を教えるのにも案外通用することもよくあり、どのレベルでも、学びの原点や楽しみというものは、あまりかわらないような気がします。

以下、アンケートでいただいたご質問に関する内容です。

・表現と言語化を結びつける方法について
表現と言語化という行動は、無意識だったものを意識的にし、デザインが意図的なものであることを理解してもらうことです。
私が工夫していることは、プロセスです。同じプロジェクトの中で様々な表現を利用し、そのデザイン過程と思考過程が、参加する子供たちや大人にもいつでも見えるようにしてあげることです。例えば、まだデザインのアイデアが定まっていない時は、ダイアグラムを利用し、皆のアイデアを集めるブレーンストーミングの方法を利用し、文ではなくまずは単語を集めます。
次にデザイン例を参考にしながらスケッチをしたり、コラージュを作ったり、さらに技術的な単語も書いて、イメージと言葉の両方を記録に残します。ある程度アイデアが出てきたら、それをまとめて文にするか、軽く中間発表・批評や話し合いをしてもらいます。
その後実際に平面図やデザインスケッチをし、模型も作ります。模型を先に作った方がわかりやすい時は、できた模型を見てスケッチをしてもらい、プレゼンテーション用の説明文を足していきます。この段階では、プロジェクトやモノに名前や題名をつけて、アイデアをデザインコンセプトに変換し、全ての過程を振り返ってもらいます。
建築家にとってこういった作業は習慣になっているのですが、デザインを経験しことがない人にとってはとても難しいことで、慣れていない人は、まず頭で全部考えてまとまってから見せようとします。でも、それでは考えを共有できませんし、効率が悪いです。つまり大切なのは、プロセスを段階的にし、できる限り多くの次元や表現方法に触れさせることです。そうすることによって、それぞれの子供の強みと弱みが自然と見えてきます。教える側は、子供の段階的な作品を通し、まず子供が何を思って、何をしようとしているか理解し、足りない表現や技術面をサポートすればよいわけです。
さらに他の子供とプロセスを共にすることで、他の子供たちのいろいろな表現方法がよいお手本になりますし、正しい答えや方法があるはずだとこだわっていた子供も、なんだかよくわからないままとりあえずやってみた子供も、全体を見回した時に、共通点もあれば、案外人それぞれだということを理解していきます。
さらに、いくつかプロジェクトができるのであれば、それぞれの学習目的よって、物語をつくってもらったりして想像することを中心にしたり、感覚について学び感情表現と結びつけたり、空間デザインでは機能的なことに注目を向けたり、敷地分析などをシンボルと凡例を利用しコミュニュケーションをとってもらったりと、学びの過程と集中する点に変化をつけることもできます。

・ネイティブアメリカンの言葉に四角がなかったことについて
部族によって違うかもしれません。確かに、自然にできた個体としては、四角はあまり無いかもしれませんね。私の勝手な想像ですが、円は、太陽や切り株などの自然の形があり、モノが朽ちる時は角がとれ、人が輪になって並ぶなど機能的なものとして必要だったのかもしれません。幾何学的な文様はたくさんあるのですが、幾何学という概念がない状態で、外来語をそのまま取り入れたのだと思います。窓という概念も、もとはただの空気穴でしたので、視覚的な窓とは別物で、石・土の文化と木の文化の違いも関わってくるのかもしれません。
目のナナメ細胞の情報どうもありがとうございました、面白いですね。ネイティブアメリカンのツボに描かれたたくさんの斜めの線と、奥行きと聞いた瞬間壮大なスケールのニューメキシコの砂漠を思い出しました。脳科学と教育について講演があり、幼児がアルファベットを学ぶ際に斜めの線の認識が必要だと聞いた記憶があります。
「間」の話も確かに様々な見方ができ、西洋といっても場所によって違うかもしれませんし、イスラム系の空間認識のアイデアも興味深いですね!まだ山ほどわからないことだらけですが、また近いうちに皆さんと交流・会話ができるのを楽しみにしております。

では、皆様お元気で!
酒井敦子

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7月25日からスタートしたオンラインプロジェクトは、3か月の長丁場を乗り越えて、無事終えることができました。これも酒井さんはじめご参加いただいた皆様のおかげです。
酒井さんの、建築と子供たちの理論、意義、体験談、アドバイスなどの貴重なお話や、ご参加の皆様からの示唆に富むご意見とご感想を、今後の活動に生かしていきたいと思っています。
ありがとうございました。 

建築と子供たちオンラインプロジェクト スタッフ一同

ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021 ~オンラインでつなぐ建築と子供たち~② 講演 part1

ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021
~オンラインでつなぐ建築と子供たち~

2021年10月24日(日) am9:30~11:00 

< 講演「建築と子供たち~創造性を育む教育法について考える~」part1>

酒井敦子さんに、オンラインワークショップのまとめや、2019年に大阪で行われた「はじめての建築と子供たち」の内容も含めて、「建築と子供たち~創造性を育む教育法について考える~」というテーマでお話していただきました。


●これまでのオンライン交流

2000年に、仙台とニューメキシコの子供たちの国際交流の一環としてビデオ会議を行いました。芦口小とモンテズマ小の5年生はお互いにエコハウスをデザインしてきたのですが、その内容を図や模型を見せ合って発表しました。まだスカイプもないころだったので、大学のメディアセンターに行ってつなぎました。

そしてスカイプが導入されるようになって、建築と子供たちの仲間のカタリーナさんが、出身国ボリビアの建築家とアルバーカーキアカデミーのサマースクールの子供たちを結んでスカイプ交流を行いました。

2017年から2019年にかけては、南フロリダ大学のオーナーズカレッジの学生と、仙台の六郷小、立町小、台原小の子供たちがスカイプで交流しています。

オーナーズカレッジというのは、入学してくるトップクラスの学生を様々な学部から集めて学際的な教育を斡旋しているところで、1/3ぐらいは医療系を目指している学生で、その次にエンジニア系の学生が多いので、建築と子供たち自体の内容は行いにくかったのですが、学生の良いところを活かして、また違った交流ができました。

例えば、キャンプについて話すためにテントを持ってきたり、象の歯磨き粉という化学実験をテレビの前で見せたりして、それはそれで面白かったと思います。

そういうわけで、私たちは案外オンライン交流の先駆者でありまして、いろいろなことを長年してきました。


建築と子供たちの哲学:教育学

建築と子供たちはニューメキシコで生まれました。

建築と子供たちゆかりの地ニューメキシコ
アドビ建築やバルーンフェスティバルで知られる

この教育法は、アン・テイラー先生のアリゾナ州立大学での博士課程のころに始まりました。このプログラムは、60年代~70年代の公害や環境問題に目を向けた環境運動にかなり影響を受けています。ですから皆さんは、建築と子供たちで学んできたことが自然とつながっていると感じたと思います。環境というものは、私たちの生活の一部であり、物事の原理や法則を学ぶのに適している、学校では学科をばらばらに学ぶのではなく、まとめて学ぶ方が効率もいいし、学際的なカリキュラムができるのではないか、というところにアン先生は目を向けたのです。
そして、アン先生の専門分野である芸術教育学関係や、ハワード・ガードナーの8つの知能※1、ベンジャミン・ブルームの学びの分類学※2など様々な教育学も取り入れ、スタジオを中心とした創造的な学習環境の必要性も説いています。
現在よく聞くSTEAMをさらに超えた総合的な学習というのをアン先生は探していたと思います。
アン先生はよく、BODY、MIND、SPIRITと言っていますが、それは3つの学習要素のことです。五感などの物理的、感覚的、生理的なものをBODY、論理的な思考や概念的な学びをMIND、文化的な価値観や精神面をSPIRITと表現しました。
環境自体が学びの文脈であることを利用して、環境を使いながら学習内容・学科を学ぶことができる、そしてぐるぐる回りながら3つの要素を鍛えることができるという学びの過程を大切にしています。

※1:人間は、言語的知能、論理数学的知能、空間的知能、身体運動的知能、音楽的知能、対人的知能、内省的知能、博物的知能の8つの知能を持つという多重知能論
※2:観察と感覚的な発見、コンセプト形成とスキル習得、創造的問題解決、価値評価、スチュワードシップを繰り返し、学習者は物理的環境での発見を観念/思想に変換していく学びの過程をシステム化したもの

● 歴史的背景と流れ
建築と子供たちは、80年代にはプログラムとして成立し、85年にスクールゾーンインスティテュートが設立され、87年にカリキュラムポスターができ、91年には教師用のガイドブックもできました。同じ頃、ドリーン・ネルソン先生のCity Building Educationなど他のプログラムもできて、2000年ごろには、ウェブやネットワークの普及でアメリカ各地のプログラムや世界の様子もわかるようになってきました。
そして、2019年に、アン先生がアメリカ建築家協会で、AIA Collaborative Achievement賞を授賞され、それをお祝いした矢先、コロナがやってきて、建築と子供たちのプログラムを体験できるオンラインビデオができました。

●プログラムの基本構成
実際のプログラムの内容は表1のようなものがあります。基本的な視覚言語とコミュニケーションからはじまって、パターンになり、少しずつ複雑になっていくというのが基本型です。また、それぞれのプロジェクトが違ったり、目的が違ったり、教える人によって発展していって複雑なものもたくさん出てきます。オンラインビデオは基本型のものがメインに入っています。皆さんのオンラインワークショップは基本型のはじめの方のものですね

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 基本型
  ・視覚言語とコミュニケーション 
  ・デザインを整理する原理と自然のパターン
  ・断面図の基礎、スケールと抽象画
  ・建築の決まり(平面図、立面図、断面図)
  ・建築模型作り ・構造デザイン
 応用型
  ・サスティナブル ・複雑な構造 
  ・文化的内容(歴史的建築保存など)
  ・インテリアデザイン ・都市デザイン
  など、もう少し複雑な内容を入れ込む
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    表1 プログラムの基本構成

例えば、禅タングル、それ自体は建築と子供たちにはありませんが、線描画を使って技術を身につけ、視覚でコミュニケーションを図る可能性を学びます。線にはいろいろなものがあり、それによって深さも違うし、奥行きも出てくる。さらに、表面を処理すると3次元ができます。そういうことを少しずつ学んでいかなければならない。言葉も大切ですが、視覚的コミュニケーションも大切です。

線描画「禅タングル」で、線や面の技術を身につけ、視覚的コミュニケーションを学ぶ


●空間の構成について       
その次に空間の構成について学びます。ポジティブフォームとネガティブスペースという2つの空間の要素に気づくことの大切さも学びます。ポジティブフォームとネガティブスペースというのは案外難しいのです。
建築というのはモノとして見ると、壁とか触れるものをいろいろ組み合わせてつくられています。でも体験しようとすると、空間としての建築体験というのが大切で、そこを考えないと建築デザインというのはできません。
日本では、「間」というコンセプトがあるので、わかりやすいと思うのですが、西洋では、「間」という考え方があまりなくて、芸術学やアートに入っているから学ぶわけで、それをポジティブフォームとネガティブスペースとして学んでいます。
9-11メモリアル※3や光の教会※4は、ネガの部分をうまく利用した良い例ですね。
なぜこれを学ばないといけないかというと、私たちの脳の仕組みにも、哲学のゲシュタルト論5にも関係しています。 
有名なウサギとカモの絵は、目と脳の関係で、ウサギに見えることもあるし、カモに見えることもあります。ウサギとカモは交互には見えやすいですが、両方一緒となると難しいのです。建築でもポジとネガを平等に見るという事は難しい。だから頭のトレーニング、デザインのトレーニングをするのです。
2017年、六郷小学校では、道をデザインしたとき、ゲシュタルト論5を利用して、道自体を強調したものと道の周りを強調したものとを、5年生に交互にデザインしてもらい、それらを一緒に並べて、ポジとネガのコンセプトを学んでもらいました。

六郷小学校「道のデザイン」
道を強調したグループ、道の周り強調したグループに分かれてデザインし、ポジネガのコンセプトを学びました


※3:世界貿易センター跡地に犠牲者を追悼する施設として作られた。センターが建っていた場所に、地下深く切り込まれた空間は、空や周囲と一体になってネガティブスペースを構成している。

※4:安藤忠雄設計の教会。ポジティブな物体でデザインされるのが一般的な十字架を、壁に十字に穴を開けて、そのネガティブスペースから差し込む光を十字架として見えるようにデザインされている。
註5:ゲシュタルト論は、人間の脳は特徴を捉え見たいものを見るようにできているという理論。また、触れる物をポジティブ、物と物の間の空間をネガティブとしている。


●立体化:2次元から3次元へ
アン先生は、デザインパターンというものが、自然のパターンを利用したデザインで、物事を整理する、頭を整理するための方法「Organizing Principle(構成的原理)」であると言っています。この原理、デザインパターンを学びながら、紙を利用して、モノの立体化の面白さも少しずつ体験していきます。
さらに、それを応用して、街並みやファサードのデザインに利用することもできます。


●創造性を育む:想像する、創るという行動とは?
想像する、創るという行動とはどんなことだろうということを、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。私たちは、こういったことを深く考えずに無意識に行動しています。
それを言語化したのが、彫刻家のリチャード・セラです。彼は、自分がやっている彫刻という行動についていろいろ考えてそれを言葉にしてみました。それが動詞のリストです。
ここで、皆さんも参加できるよう、画面の内容を変えます。今回は、グーグルジャムボードを利用します。可能でしたら参加ください。うまく開けなければ、見るだけで、声をかけてくださっても良いです。
ジャムボードは、大学のオンライン授業で学生が参加できるようによく利用しています。ここでは、セラの動詞リストを使ってポジネガでどんな行動をしているかを、皆さんにチェックしてほしいと思います。
ワークショップに参加した方は、自分がどんな行動をしたか、参加していない方は自分だったらどんな行動をするかを考えながらリストにチェックマークをつけていってください。
こうすることによって、自分の行動とか子供たちの行動をしっかり見極めることができます。そしてそれをいかに言葉にしていくかということがとても大切なことです。特にアメリカの場合は、論理的に話せるとか、例えば建築の授業とかで、どうしてこんな形なのかとか、どうしてここにこんなスペースがあるのか聞かれますし、あとは仕事をもらってくるときに、うまく話せない人はたくさん仕事がとれないのです。ですから、子供たちも体験したことを言葉にできるというのがとても大切です。幼稚園でもいろいろな言葉を教えたりします。例えば、何枚紙を切ってください、というときに何枚としっかり数を言う、その数に合うように教える、そういうことを心がけています。
視覚言語も大切ですが、それを言葉に戻すという思考能力の訓練もとても大切です。
動詞リストは、そういう面で面白いと思い、建築と子供たちとは直接関係ないのですが、ここで取り上げました。

ジャムボードを使って、ポジネガの作品を作るとき、どのような行動をしたのか、動詞リストから選んでもらいました。「広げる」「切る」「回転させる」「折りたたむ」「接合する」「集める」「調整する」「異なるようにする」「とりこむ」「乱す・崩す」など、チェックマークが次々につけられていきました


ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021~オンラインでつなぐ建築と子供たち~① 発表

 ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021
~オンラインでつなぐ建築と子供たち~

2021年10月24日(日) am9:30~11:00 

7月より開催してきたオンラインワークショップを振り返り、参加者からワークショップの感想や今後への提言などを発表していただくとともに、建築と子供たちに長年携わってこられた酒井敦子さん(南フロリダ大学ジュディゲンシャフト オーナーズカレッジ専任インストラクター)をお迎えして、米国フロリダから講演していただきました。参加者は、仙台、大阪、名古屋、新潟、宇都宮、シンガポールからの大人23名と小学2年生1名です。

< 発表「ワークショップを振り返って」>
参加された4名の方々から発表をいただきました。
●親子参加者:小学2年生の息子と一緒に3回受講しました。息子は絵を描いたり、切っ
たり貼ったりするのが少し難しいところがあり、子どもにどうしたいのか聞いて手伝った作品が多いです。今回、切る、並べる、貼るという単純な作業だったので楽しんで取り組んでいました。夢中で取り組んでいて最後に仕上がるので子どもの満足度が高かったと思います。受講してから生活の中でもデザインパターンを見つけては教えてくれたりしています。今までおもしろい形だな、可愛い形だなと思っていても、私にうまく説明できないでいましたが、「ここがぐるぐるになっていておもしろいね」とか「同じ形がつながっていて楽しいね」とか具体的に表現できるようになりつつあり、彼にとってプラスになったと思います。
受講してみて、子どもを対象にする場合、子どもの年齢や発達状況に応じて手伝いや声掛けが必要だと感じました。Zoomだと途中で質問するのが難しく、親が手を出しすぎて子どもに自主的にさせることが難しかったので今後工夫が必要だと思いました。
パターン 放射

禅タングル 対称・分岐、リズムと繰り返し


●建築家:いかに自分の頭が硬くなっているかを実感させられました。
一番悩んだのは、あるルールが与えられて、その中だけで考えていたのでは余り面白くないものになるのだろうなと。だからルールをどこまで逸脱していいのかという解釈を探っていくのが難しく、そこに時間をとられて頭を自由に考えられなかったです。
ポジネガでは、〇△□を残しながらどう分解していくのか考えて、少しは元の形を残そうとしたことが大人のブレーキになりました。子どもさんの作品を見ると、爆発的に出ていったり、1か所外すだけでものすごく面白くなるとか、すごいなと思いました。デザインパターンでは、分岐、螺旋、放射をいっぺんに使えないかなどと考えて、結局何だかわからなくなってしまいました。禅タングルでは、出張先の素敵なアイビーの中庭で受講して、アイビーの葉を使ってそのままパターンにしようとしたらただのアイビーの壁面になってしまい、自然にはかなわないなと思いました。
今回のワークショップ、お子さんだけではなく、大学1年生にやってもらうと空間認識や空間の創り方の参考になると思うし、頭の硬くなった大人に脳を柔らかくしよう講座みたいにするといいのではないかなと思いました。
ポジネガ 四角

パターン 分岐

●小学校長:デザインパターンと禅タングルの回に参加しました。パターンというと、パターン化するみたいな感じで何となく画一的になってしまうのではないかなと思っていましたが、実際やってみるとそれぞれの個性が際立つみたいな結果になってすごく面白いなと思いました。そんななかで自分の個性は硬いなと思いました。
学校でやっている図工と比べてみると、例えば絵を描く場合、写実的に描けたら「上手だね」のような評価になっていて、それが子供たちの発想をせばめているような気がしました。今回のような活動は、パターンに気づかせて、自然にあるものに注意深く目を向けることを促していくので、それが子供たちの面白い発想を引き出していくのではないかなと思いました。親子の方の様子を見ていると特にそう感じました。
今、STEAM教育が大事だと言われはじめて、そういうところに向かっていくと思のですが、今のところ、STEAMのT(テクノロジー)がイコールプログラミングみたいな感じになっていてそこへの注目が集まっていますが、建築デザイン教育がもっと注目を集めてもいいと改めて思いました。
パターン 放射

禅タングル 分岐


●ワークショップ指導者:この度、デザイン体験ビデオの翻訳に携わることになり、アン 
先生のプログラムを何度も何度も聴いて書いて読んでという作業をさせていただいたおかげで、建築と子供たちのプログラムの目的やSTEAM教育がどういうものかということを勉強させていただきました。そのなかで建築と子供たちは、単純なデザイン学習ではなく、総合的かつ体系的に考えられているプログラムであり、今後もうまく活用させていただきたいなと思いました。
今回、学習の目的は私自身よく理解して、大学で学んだことや実務で日々体験していることと重ね合わせて指導にあたったわけですが、わかっていることと教えることは全く別の世界で、いろいろ試行錯誤しながらやらせていただきました。学校の先生たちは大変だな、すごいなということを実感したところです。
zoomの学習での感想ですが、良い点は情報を即座みんなで共有できることは便利だし、やりやすいなと思いました。また、パワポを使って説明したり、カメラを目の前に持っていけば、みんなに拡大して見せられるとか、画面に映るところに必要なものだけおいておけるとか、発表者が一人ひとり大きくできるといったことも良い点として挙げられると思います。
今回のデザインパターンの体験では、自然物を見つける、そしてデザインするという2段階の学習でした。リアルであればみんなで自然物を見つけに行くというところにも体験の醍醐味があると思うのですが、個人個人のオンライン学習では、みんなでとか外に出てとかいうところに制限がかかってしまうので、リアルにはかなわないなと思いました。それと参加者の作業状況が見えづらくやりにくかったのですが、今回は主に建築関係の大人と親子参加者というレベルが高い人たちだったこともあり、そうした状況でもかなりよく対応できたと思います。今後子どもを対象にする場合、作業進捗を確認できるアプリを導入する、リアル体験を一部取り入れてハイブリッド型にする、親子参加であれば親と子の両方に対応できるプログラムの仕組みを考える、学校であれば担任の先生の力を借りてリアルとオンラインのいい面を使いながら活動する、などの方法があるのかなと感じ、この先次につなげていきたいと思いました。
パターン らせん

禅タングル 分岐

2021年11月18日木曜日

禅タングルでパターンをデザインしよう!|建築と子供たちオンラインワークショップ

 <禅タングルでパターンをデザインしよう!>

2021年10月10日(日) 10:30~12:00 

デザインパターンの2回目は、「禅タングルでパターンをデザインしよう」です。

禅タングルは、小さい紙の上にペンで線画を描いていくアート技法で、無心に描いていくうちに禅の瞑想の世界が広がるのだそうです。

ここでは禅タングルの手法を用いて、10㎝四方の白い紙の上にお気に入りのパターンを使ってデザインすることにしました。

参加者は、仙台、大阪、名古屋、シンガポールからの大人14名、小学2年生1名の計15名。全員、葉っぱや小枝などの自然物の実物か写真を持ってくることが宿題として出されていました。

それらをルーペや虫メガネなどで拡大してよく観察し、いろいろなパターンを見つけ出すことにしましたが、すでに多くの方が、放射、分岐、リズムと繰り返し、蛇状直線などのパターンを見つけてきた様子です。

いよいよそれらのパターンを使って禅タングルでデザインするときがきました。まず、端から1㎝内側の四隅に点をうちます。次に点と点を結んで線で囲み、その中に描いていきます。

ペンはマーカー1本ですが、描き方によって太くしたり細くしたり、実線にしたり点線にするなど様々な線を使いわけることができます。さっそく順調に描いていきましたが、途中「線を描いたら、ポシェを使って明暗や陰影をつけてみてください」という天の声が。「えーっ」と驚きの声を上げながらも慣れた手つきでペンを走らせる方もいました。

静寂の時間が過ぎていよいよ発表の時間。出来上がった作品はポシェを使ったことで立体感が出ていました。また、2種類のパターンを組み合わせたものや、点々などで飾りをつけたものなど様々な工夫がみられました。

ポシェのいろいろ

放射

放射・分岐

対称・繰り返し

リズムと繰り返し
準備物
10㎝四方の白い紙2枚、葉っぱなどの自然物か写真、黒マーカー(細目)orサインペン

参加者のアンケートから(抜粋)
  • まじまじと葉っぱを見て観察したのはおそらく初めてかも。よく見たらいろんなパターンが隠れているという発見もありました。パターンを決めたあとはひたすら線を描きました。自分でもまあまあ描けたつもりですが、誰かが言っていたようにもう一段階上に登るにはちょっと時間がかかりそうです。
  • デザインすること、手を動かすこと自体は楽しかったのですが、アイデアをカタチにする作業は、やはり訓練が必要なんだな、と実感しました。でも植物のフォルムまたはディテールからデザインアイデアの種を見つけてくるのは楽しいです。
  • 今の今まで、稲というものをよく見たことが無かったことに気づかされました。このプログラムには、物を見る目を育てる、自然物から何らかのパターンをさぐりあてる、それを使って二次元の限られた範囲を美しく構成する、さらにそれらを装飾して自分の世界を表現する、というすごい内容が詰まっていると思いました。
  • ひとつの物体のなかに、いろいろなパターンが発見できたのが面白かったとともに、そのパターンをどう展開するのか?なかなか右脳を刺激される感じでした。
  • 初心者からデザインの専門家まで気軽に楽しめる作業だと思いました。ただ、できる人とできない人の差が表れやすいので、レベルに応じた対応が必要だと感じました。
  • 遅刻にて要領がよく解っていなく直訳になってしまいました。他の皆様の素敵なパターン抽出と組み合わせに驚きました。
  • 純粋に楽しかったし夢中になりました。絵を描くというのとは違った感覚が良いですね。ただ「パターン」というものをどのように考えると良いのか、パターンをどう生かすのか、なんとなく分かったようで分からないところもあり迷いました。曖昧でいいのであればそれで良いのですが若干気がかりでした。
  • 小学2年生の息子と3度目の受講になります。前日に落ち葉やどんぐりなどを公園で拾いました。前回のパターンを思い出して話しながら、考えながら探すのが楽しかったようです。木の葉をモチーフにデザインに取り組みました。 葉の周囲のギザギザを感じ取りスケッチ。 そこから作品に応用するのが難しかったようで、こちらでパターンを描きました。 その際の声掛けがうまくできれば、もっと子どもが主体的に最後まで自分で仕上げられたのではと反省しました。作品については、子供が気付いた葉のギザギザを活かしました。 形や葉脈ではなく、触覚で読み取ったイメージに注目したのが面白いと感じました。 自分の方は、葉脈を簡略化してパターンとしました。 四角の底辺中央をスタート地点としましたが、角から始めたり角度を持たせたりしてみても面白そうだと思いました。

デザインパターンのいろいろ ~自然の中のパターンを使ってデザインしてみよう~|建築と子供たちオンラインワークショップ

 <デザインパターンのいろいろ
 ~自然の中のパターンを使ってデザインしてみよう~>

オンラインワークショップの第二弾は、デザインの構成的原理(ここではデザインパターン)を使った、「デザインパターンってなあに?」と、「禅タングルでパターンをデザインしよう!」の2回の連続講座(指導:永野ますみさん)です。

自然にあるものをよく見ると、らせん、放射、分岐、対称、格子、直線(垂直、水平、対角、平行、蛇状を含む)、ランダム、リズムと繰り返し、ポジティブフォームとネガティブスペースなどのパターンを見つけることができます。このワークショップでは、自然のなかにいろいろなパターンがあることや、それが建築にもインスピレーションを与えていることに気づくこと、そして、これらのパターンを使ったデザインを体験します。

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デザインの構成的原理とは(by酒井敦子さん)
デザインの構成的原理(Organizing Principles of Design)は、物事の秩序や仕組み、デザインの形や構成を“整理整頓する(organize)”ための原理のことです。
一見ランダムで適当に思いつくままにデザインされているように思われがちですが、実際は、組織的、または体系的に考えることが大切で、その多くが自然に由来しています。
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<デザインパターンってなあに?>
 2021年9月23日(木)10:30~12:00

1回目は、仙台、大阪、名古屋、新潟から、大人14名、小学2年生1名、小学6年生1名、中学2年生1名の計17名が参加しました。
はじめに自然物にある様々なパターンとそれらがどのように建築に使われているかを動画やパワポで視聴しました。その後、5㎝四方の黒い紙を使って、A3の白い紙の上に3種類のパターン(らせん、放射、分岐)でデザインしていく活動を行いました。黒い紙は、2次元の平面でも、折って3次元の立体にしてもよいことにしました。
まずは、らせん、放射、分岐の形に順に黒い紙を並べてみる練習から。練習が終わると今度は気に入ったものを選んでノリで貼っていく作業です。最初は戸惑いながら、しかしやっているうちに段々と面白くなり。そうこうするうちに出来上がってきました。そして、一人ひとり工夫した点、気に入った点など作品を掲げながら発表しました。

分岐

放射

らせん

準備物
5㎝四方の黒い紙30枚、A3サイズの白い紙1枚、スティックのり、黒マーカー(細目)orサインペン

参加者のアンケートから(抜粋)
  • 繰り返しのパターンにも、向きや折り方でいろいろ変化がつけられるし、それが感じるままに表現していいことがよかったです!
  • 身近な自然が、デザインパターンを学んで見ると細かいところまで気になるのが面白かったです!
  • 放射など色々なデザインを学べて勉強になったし楽しかったです。
  • 回を追うごとに自分の思考のクセが見えてきて、それもまた楽しいです。でもやはり、子どもの発想は楽しい。
  • 最初は放射にしようと思ったが、並べているうちにらせんに変更。貼っていくうちに白い部分の形も気になり出した。前回のポジティブフォームとネガティブスペースのこと思い出しました。白い部分の形も意外と気に入ってます。
  • 自然界からパターンを読みとって、デザインを考えるって面白い発想ですね。また、自然界は有機的な形状なのに正方形の紙で表現するというところが、また面白かったです。
  • デザインと想像力は無限だなと毎回、実感させられます。年齢を問わず、デザインの基礎を学習するよい課題だと思いましたが、やはり子どもたちに体験してもらいたいなと思いました。
  • 前回に引き続き、小学2年生の息子と参加しました。動画でデザインパターンの例を見た時に、自然物など身近な形でしたので、実感し易かったようです。受講後も生活の中でパターンを見つけては教えてくれるようになりました。息子は、沢山のパーツを並べていく作業が楽しかったそうです。絵や線を描くのは難しいけれど、並べることで簡単に形や連続性などを表現できるのが良かったのかなと思います。
  • 久しぶりにデザインのワークショップに参加し、子供たちと取り組んでいた頃を思い出しました。オンラインでもできるんだと分かったことが収穫です。そして、建築と子供たちのカリキュラムがSTEAM教育だと改めて気付くことができたのも収穫でした。手を動かして作品をつくるのは理屈抜きで楽しいです。
  • 建築の「形態操作」をいくつかの単純なルールで置き換えて、その繰り返し方や組み合わせ方法で過去の現代建築を分析し、どのようにできているかを修士論文でやったことを思い出しました。当時はパターンランゲージや、ウィリアムミッチェルの形態生成論にはまっていまして。 今更ながら、テイラーさんの子どもの感性を引き出すプログラムの中に、非常に論理的な方法論がベースにあるのだろうと推測しました。

2021年11月9日火曜日

建築と子供たちオンラインワークショップの開催(2021年7月~10月)| 概要・ポジティブフォームとネガティブスペース

 建築と子供たちオンラインワークショップの開催

2021年7月~10月

建築と子供たち提唱者のアン・テイラー博士(ニューメキシコ大学名誉教授)が主宰するNPOスクールゾーンインスティテュート(School Zone Institute:SZI)では、コロナ禍においてオンラインで建築と子供たちのデザインを体験できる動画を制作しました。

動画は、建築と子供たち定番の8本のプログラムにより構成され、各動画にはその目的や教育的効果、具体的な手法等が掲載されています。

ネットワーク仙台と建築と子どもたちデザインLABO関西は、多くの日本の人たちにこの動画を見てもらおうと、動画に日本語字幕を入れることになりました。制作にあたっては、SZIメンバーの、酒井敦子さん(南フロリダ大学ジュディゲンシャフトオーナーズカレッジ専任インストラクター)、メリンダ・ワルシュさん、カタリーナ・サリナスさんと、ネットワーク仙台の永野ますみさん(ニューヨーク州登録建築家)に多大なご協力をいただき、英語の文字起しからはじまり、日本語への翻訳、そして字幕入れを行うまで1年がかりで完成にこぎつけました。日本語字幕入り動画の公開予定は未定ですが、ネットワーク仙台とデザインLABO関西が共催して、字幕完成を記念したオンラインワークショップを2021年7月から10月まで4回にわたって実施いたしました。その概要について報告いたします。

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建築と子供たちデザイン体験動画プログラムリスト
  • 視覚言語と概略図
  • ポジティブフォームとネガティブスペース
  • デザインの構成的原理
  • 建築公園-動機づけと筋書き
  • 植物の断面図と抽象化
  • 紙で作る自分の部屋
  • ネズミの家
  • 地域や小さな町のプランニングと模型作り
*英語版動画はhttp://architectureandchildren.com/で視聴可能です
*版権はスクールゾーンインスティテュートが所有しています
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<ポジティブフォームとネガティブスペース>
2021年7月25日(日)10:30~12:00
2021年8月22日(日)10:30~12:00

 7月と8月の2回にわたり、デザイン体験動画のうちポジティブフォームとネガティブスペースを実施しました。
 参加者は、7月25日が大人8名(仙台、大阪)、8月22日が大人11名、小学2年生1名(仙台、大阪、名古屋)の計12名、指導はいずれも永野ますみさんです。
ポジティブフォームは、建築で言えば壁や床や天井などの固体で、手で触れるものです。
ネガティブスペースは、ポジティブフォームに囲まれた何もない空間で、建物の外にもあります。壁の一部を窓にすると、建物の内外のネガティブスペースがつながります。
 このワークショップでは、ポジティブフォームとネガティブスペースを2次元で表現してみようというもので、円と三角と四角の黒い紙を刻んで、白い紙の上に、拡張したようにあるいは爆発したように隙間をあけて並べて貼り付けます。ここでは黒い紙がポジティブフォーム、背景の白い紙がネガティブスペースになります。
 説明のあと取り組みはじめましたが、さてどのように切ろうかハサミを持った手が止まります。あれこれ悩みながらも思い切ってハサミを入れていくと思いがけない形に変化。皆さん顔も上げずに夢中で手を動かしていました。最後に全員で作品を披露。はじめはみんな同じ形だったのに、それぞれ全く違うユニークな作品の数々が出来上がっていました。

円の拡張

三角の拡張

四角の拡張

準備物
円、三角、四角の黒い紙各1枚(各辺15㎝の正方形と正三角形、直径15㎝の円形)、A3サイズの白い1枚、ハサミ、スティックノリ、黒マーカー(細目)orサインペン

参加者のアンケートから(抜粋)
  • 小学2年生の息子と参加いたしました。お話を聞くだけではなく、実際に手を動かして作品を作るのが面白いと感じました。作業自体が難しくないので、デザインをするという体験が手軽にできる点が良いと思います。子どもは、ゼロから絵を描いたり創造するのが難しいです。特に手先が不器用な子は、描画などのテクニックが無いので、アイデアを作品にまで仕上げるのが難しい。そういった子どもも、今回のような手法であれば、【切る】【並べる】【貼る】などの単純作業により、デザインを体感できます。材料も情報も少ないので、デザインに集中して取り組み易かったと思います。色々な子どもが、それぞれの個性を持って取り組めば、面白い作品ができそうですね。
  • 自由に考えられること、偶然にできる形の面白さがよかったです!疲れた大人の脳みそのストレッチになると思います。
  • 丸、三角、四角の紙を切って貼るだけで、二次元の紙の上で、立体と空間の関係を想像することができる、優れた教育方法だとあらためて思った。また、子どもだけでなく、大人にも大変役に立つと思った。
  • 決まった形を好きなように切って、貼るだけで出来上がる作品はこんなに違うんだ!と、びっくりでした。そしてそれが建築デザインに繋がっていることにも。

2021年10月3日日曜日

「蔵で堤人形」絵付けわーくしょっぷ2021

 2021年10月3日(日)

若林区南材木町にある旧丸木商店の店蔵を会場に、来年の干支<寅(トラ)>の堤人形の絵付けを、日本建築家協会東北支部宮城地域会との共催で実施しました。

奥州街道沿いに残るこの店蔵は、仙台市の「杜の都景観重要建造物等」にも指定されています。2011年の東日本大震災で被災しましたが、近くの南材木町小学校の子どもたちが復興を願ってデザインした、ユニークな〝紋″で飾られ復活しました。これまで建築と子供たちネットワークでは、この店蔵を保全・活用する活動を行ってきました。

旧丸木商店店蔵が会場の絵付けは2年ぶりとなります。昨年度は残念ながらコロナ禍の影響で開催できませんでした。今年はコロナ禍を考慮し、人数を絞っての開催です。

集まった11名の参加者に、つつみのおひなっこやの佐藤明彦師匠が、丁寧に指導してくれました。太さの異なる3種類の筆を使い、黄色、黒色、朱色、白色の4色で絵付けを進めます。

まずは真っ白い生地の堤人形を黄色で全体を塗りつぶします。その次の工程、黒い模様がポイント。ぐるぐると円を描くダイナミックな模様をうまくかけるかな?お手本を描く師匠の筆遣いに、全員が見入ります。黒い模様が入ると、一気に寅らしくなります。試行錯誤しながら黒い模様を入れ終わったら、朱色で口・耳・鼻、白色で目・ひげなどに模様を入れ、最後に目と尻尾を黒色で描き、完成です。

最後は全員の作品を集めて記念撮影。個性あふれる鮮やかな寅が完成しました。秋晴れの良い天気のなか、ゆっくりと楽しみながら絵付けすることができました。来年度こそは、コロナ禍が落ち着き、多くの方々に楽しんでいただけると良いなと思います。

絵付け前の真っ白な堤人形

寅のからだ全体に模様を描きます

たくさんの鮮やかな寅が完成しました

自分の作品を持って記念撮影

2021年9月28日火曜日

台原小学校3年生総合学習「台原のひみつ大発見!」

 2021年9月28日(火)

台原小学校3年生は、毎年、学校で土鈴をつくり、堤町まちかど博物館での見学と土鈴の窯出しを行ってきましたが、今年はコロナ禍のため土鈴づくりが取りやめとなり、博物館の見学のみが実施されました。

今年の3年生は3クラス95名。密を避けるため、クラスごとに時間をずらして堤町にやってきました。各クラスは3グループに分かれ、登り窯、つつみのおひなっこや、堤焼展示室(佐大ギャラリー)を順に巡りました。

<登り窯にはどんなひみつがあるのかな?>

登り窯では、佐藤吉夫師匠やネットワーク仙台から登り窯の歴史や構造などについて話を聞きました。

  • 窯は、大正7年にできて今年で103才になる。昭和40年代までこの窯で堤焼が作られていた
  • 6つの窯が連なって階段状に登る形なので、六連の登り窯と呼んでいる
  • 焚き口が下にあり、熱い火は上に登っていく仕組みになっていて、一度に6つの窯全部に火がつく。たくさんの焼き物を作るのに効率のよい形をしている
  • レンガをアーチ状に組み立てトンネル状にしたボールトという形をしている
  • 東日本大震災で、上から3つの窯が壊れ、大勢の人が協力して復興した。古いレンガと新しいレンガが混ざっている
  • 窯の下に開いている穴は火が登るための空気穴
  • 焼き物を窯に入れたあと、火が外に漏れないように窯の入口をレンガや土で塞いだ
  • 窯の上にのっている木の型はレンガのアーチを作るために使った
  • 窯の温度は1200度まであがる
  • 台原小学校の校庭の下にも焼き物を作る良い土がある
  • 壊れた焼き物は土に戻して作り直しができるのでゴミが出ない

登り窯の歴史や仕組みを聞きました
「焼くときは、入り口をレンガや土で塞いだんだよ」と吉夫師匠
古いレンガはツルツルしているね

<堤人形やダルマはどう作るの?>
つつみのおひなっこやでは、佐藤明彦師匠から堤人形とダルマの作り方について教えていただきました。
  • 堤人形は江戸時代から伝えられてきた型を使って作る
  • 表と裏の2つの型を使う
  • 2つの型のそれぞれに粘土を押し付けてから、2つを合わせて両方の粘土をくっつける
  • しばらく置いてから型をはずすと人形が現れる。中は空洞になっている
  • 人形を乾かしてから窯で焼き、そのあと人形に胡粉という白い粉を塗り、その上に色をつけると堤人形が出来上がる

次に、明彦師匠から「ダルマに使われている材料は何だろう」というクイズが出されました。
「木」「プラスチック」「石」などいろいろな答えがでましたが、師匠は「答えは紙です。ダルマも型を使って作りますが、型は木でできていて、その上に紙を何枚も張って作ります。底になる土台だけは乾燥させた土で作ります」。最後に胡粉を塗り、色を付ける工程は堤人形と同じだそうです。
「型をはずすと堤人形が出てくるんだよ」と明彦師匠

<堤焼クイズに挑戦しよう!>
最後に回ったのは堤焼の展示室です。子どもたちはクイズの紙を手に張り切って入ってきました。台の上に乗っている堤焼の数々を見て、クイズの堤焼がどこにあるのかを探し、その使い方を当てるのです。

クイズは次の3つです。

A:鬼瓦は家のどこに置かれましたか
  1.  キッチンのかべ
  2.  屋根の上
  3.  トイレのかべ
B:大がめは何をいれて使いましたか
  1.  水
  2.  お酒
  3.  お風呂のお湯
C:これは何に使うものですか
  1.  植木ばち
  2.  花びん
  3.  冷たいごはんをあたためる
鬼瓦はすぐに発見。おかれた場所は、屋根の上が一番多くて、キッチンのかべという答えもありました。大がめは、「お風呂のお湯」が多かったのですが、「水」と正解を答えた子もいました。
そこで、「水道がなかった昔は、井戸から水を汲んできてかめに溜めて料理や洗い物に使った。水汲みは子どもの仕事だったんだよ」と話すと「えーっ、重いよ」。Cでは、「花びん」と言う子に、友だちが「でも底に穴が開いているので水が漏れるよ」。結局植木鉢と答えていました。そんなやりとりのなかで、「冷たいごはんを温めるもの」と本当の使い方を当てた子もいました。
この中に冷たいご飯を入れ、湯を張った器のなかにざぶざぶとつけて、引き上げるとご飯が温まる「湯通し」という道具であることを話すと、電気も電子レンジもない時代に暮らした人々の知恵に、子どもたちは「昔の人は頭がいいね」と感心しきりでした。
クイズの堤焼を見つけよう
大きいカメはお風呂のお湯を入れたのかな?
隣で鬼瓦が「わかるかな?」

「湯通し」は昔の電子レンジだね

どの場所でも熱心に話を聞きメモを取っていた子どもたち。
見学を終えると笑顔で手を振りながら元気に学校に戻っていきました。

2021年9月2日木曜日

台原小学校3年生総合学習「台原の達人になろう~土鈴づくり窯出しワークショップ~」

 今年で15回目になる土鈴づくりは、コロナ禍で開催を危ぶまれる中、子どもたちや先生たちの熱意で開催されました。全国どこでも各イベントが中止、延期のオンパレードの中、開催のオファーは来ないでしょう、と思い始めた6月2日になって、3年生の先生から連絡がありました。何もかも学校行事が自粛の中、遠慮がちなご依頼でしたが、こんな状況だからこそがんばろう、とお引き受けしました。

7月14日(火)

 学校で行った土鈴づくりは、3密を避けるため、いつものブルーシートはやめて、一人ひとり持ち寄ったレジャーシートに座って行いました。子どもたちはもちろん、参加者全員がマスク着用です。

 指導してくださる佐藤明彦師匠と吉夫師匠も、もちろんマスク。できるだけマイクを使って指導をして、最後の手直しの時にはいつもの倍広くした机に、透明プラスチックのシールドを立てました。順番待ちの時も距離をあけて待ちました。

 そうやって出来上がった、思いおもいのデザインをこらした土鈴は、いつものように堤町まちかど博物館の体験窯で焼かれ、子どもたちが窯出しにやってくる日を待ちました。


9月2日(水)

 酷暑が心配される中、その日は願ってもない曇りの天気。午前10時に子どもたちが早めにやってきた声がし始めました。短めの全体説明の後、登り窯を見るクラス、今年から佐大商店のお店に展示することになった堤焼と、古い堤人形を見るクラス、おひなっこやの堤人形を見るクラスと3つに分かれて見学です。3密を避ける工夫はそれぞれの場所でなされました。

 登り窯では、震災で壊れた登り窯をみんなで復興したことを聞き、新しいレンガにまじって、長い間高温に焼かれてつるつるになった古いレンガを触ってみたり、熱い火が上っていく仕組みを見たりしました。

6連の登り窯のお話を聞きます
窯の中に入ってみよう
ツルツルしているのが古いレンガだね

 お店の展示室では、3つのクイズが用意されていました。

 ①この焼き物は家のどの部分にありましたか?(鬼瓦)<答え:屋根>  
 ②これには何を入れましたか?(大甕)<答え:飲み水>  
 ③これは何につかいましたか?(湯通し)<答え:冷ご飯を温めた>

 子どもたちは堤焼の形や色に見入ったり、展示している中で最も古い、江戸時代の堤人形「谷風」を見て驚いたりしていました。つつみのおひなっこやでは明彦師匠のお話をきいたり、製作途中の堤人形に見入ったりしました。

展示室で堤焼のクイズに挑戦
谷風の堤人形もチェック
つつみのおひなっこやで、明彦師匠から堤人形の作り方を聞きます

 最後に、楽しみだった窯出しです。間隔をあけた列が長かったので、灰落としはしませんでしたが、一人ずつだいじそうに出来上がった土鈴をケースに入れていました。

土鈴はうまく焼けているかな?
窯出しは一人ひとつずつていねいに 右端は窯出しを見守る吉夫師匠