2024年9月23日月曜日

2024 JAPAN-USA建築と子供たち国際交流プログラム 建築デザインワークショップ「大阪城のヒミツをたんけんしよう!」

2024年5月18日(土)

 南フロリダ大学ジュディゲンシャフトオーナーズカレッジの大学生と日本の子供たちとの建築デザイン交流は2017年から仙台ではじまりましたが、コロナ禍により2020年から3年間交流が中断していました。今回の活動は、コロナ禍後最初の交流事業として、建築と子どもたちデザインLABO関西の主催(協力:建築と子供たちネットワーク仙台(以下ネットワーク仙台))により、はじめて大阪で実施されました。

 オーナーズカレッジの大学生20名と、公募で参加した3年から5年までの小学生15名が会場の大阪市教育会館3階5号室に集合。大学生2~3人と小学生2人がひとつのチームになって全部で7チームをつくり、さらに全チームが大手門グループとタコ石グループに分かれました。

 このワークショップの目標は、大阪城公園をたんけんしながら、大阪城のデザインのヒミツを探すことでした。そのために、ふたつの課題にチャレンジしました。

 課題の一つ目は、「放射」「らせん」「対称」「直線・曲線」などの自然の中にあるデザインパターンを探してチェキで写真を撮ること、二つ目は大手門やタコ石の幅や高さを、身体を使って測ることでした。一つ目の課題は全員が、二つ目は、大手門グループとタコ石グループに分かれて行いました。

 また、目で見てわかる建築デザインの手法を活用することで、年齢や言葉の違いを乗り越えてコミュニケーションをとることも目標のひとつでした。

 講師は、渋谷セツコさん(ネットワーク仙台)、菅原弘一さん(宮城教育大学教職大学院特任教授)、藤井里江さん(大阪観光協会ボランティアガイド)の3名の方々。

 通訳は酒井敦子さん(南フロリダ大学ジュディゲンシャフト オーナーズカレッジ教育専門準教授)、堤祐子さん(宮城教育大学上廣倫理教育アカデミー副所長)、永野ますみさん(ネットワーク仙台)でした。そのほか、建築と子どもたちデザインLABO関西とネットワーク仙台のメンバー、大阪や名古屋の建築家の方々などがスタッフとして子供たちをサポートしました。また、タナー・ランズデールさん(南フロリダ大学人事部コーディネーター)には、デザインパターンなどの翻訳や参加者のお世話役としてもご支援をいただきました。

大阪城築城の歴史についてお話を聞く

 はじめに、大阪城築城の歴史について藤井さんから以下のようなお話をいただきました。

  • 今の大阪城が立っている地盤や石垣は、徳川時代に、豊臣時代の大阪城を壊してその上に土を盛ってつくられた
  • 現在の天守閣は、昭和6年に市民の寄付により建てられたもので3代目になる。初代は豊臣秀吉、2代目は徳川幕府によって築かれた
  • 城内の建物は、幕末の戊辰戦争や第二次世界大戦により、ほとんどが焼失してしまったが、いくつか昔の建物が残っている。そのひとつが大手門で1628年に建てられた
  • 城内には巨石がたくさんある。なかでも桜門の枡形には城内で1番に大きい巨石がある。この巨石は、表面にタコのような模様が見えることからタコ石と呼ばれている
  • 城は各大名が場所を分担して建造したので、自分たちがつくったという印(家紋)を石垣に刻んだ。今でもその刻印を見ることができる

大阪城の歴史について、藤井さんのお話を聞く

 大手門の建築年の説明のとき「あとでクイズに出るよ」と藤井さんから言われてメモをとる子もいて、どの子も集中して聞いていた様子が見て取れました。

大手門とタコ石の幅や高さを測るには?
 菅原さんから、「これから大手門やタコ石の高さを測るんだけど、どのようにして測れ
ばいいのかな?」と子供たちに質問。すると「メジャーで測る!」という答え。
 菅原さんは自分のメジャーを取り出して「これは5mしかない。大手門の入り口やタコ石はもっと高いと思うんだけど」といいながらパワポを見せてくれました。
 「これは塵劫記という昔の人が考えた算数の問題集です。その本のなかに、身体で木の高さを見積もる方法が書いてあります。手と足をまっすぐ伸ばして地面につけて、腰を直角に曲げると直角二等辺三角形ができます。そして体をずらしながら、木のてっぺんが見えた位置でとまり、そこから木までの長さを歩幅で測ると、その長さが木の高さと同じになります」と言って、実演してみせました。
 腰が直角になっているかどうかをスタッフが三角板で確認。菅原さんは「頭や首は手と一直線になるようにして」といいながら少し苦しそう。
「このメジャーでは短くて測れない。塵劫記に股のぞきという体で測る方法が書いてあるよ」と菅原さん

「木の先端と目を結ぶと大きな直角二等辺三角形ができるので、木までの距離と木の高さがおよそ等しいと言えるんだよ」
股のぞきを実演中
 高さは股のぞきで測りますが、幅は自分の歩幅を使って測ります。ですので、自分の歩幅も測らなければなりません。
 椅子を端に片づけて、あちらこちらで練習がはじまりました。「股のぞきは足の裏全体をきちんと床につけてね」「腰は90度になるようにね」「歩幅は普通に歩いて5歩あるいたらメジャーで5歩分の長さを測り、5等分して平均を出すんだよ」などいろいろな指令が飛び交いました。各自、股のぞきのやり方を確認し、測った歩幅はたんけんマップに記入しました。
股のぞきの練習
歩幅を測る

デザインパターンってなあに?
 次に、渋谷さんから、デザインパターンとは何かについてお話がありました。
 デザインパターンとは自然の中にある約束のある形のことで、建築家やデザイナーは、パターンを使ってデザインしているのだそうです。次に、どんなパターンがあるのか、自然にあるものと、それらのパターンを使ってデザインされた建物やモノを並べたパワポを見せていただきました。

【紹介されたデザインパターンの種類】
・らせん Spiral 
 巻き貝のようにぐるぐる巻いている形 
・放射 Radial
 くもの巣のように1か所から広がる形 
・対称 Symmetry
 線を中心に同じものが裏返ってならんでいる形 
・直線・曲線 Linear
 まっすぐな線や曲がった線など線を使った形 
・格子(こうし) Grid 
 ハチの巣のように規則正しく並んでいる形 
・枝分かれ Branching
 木の枝のように先が分かれる形 
・リズムとくり返し Rhythm & Repetition  
 形や線が規則的にくり返される形 

 ここで酒井さんから、「パターンの名前を日本語と英語で言ってみましょう」とミニレッスン。大学生と小学生は、酒井さんが一つひとつ読み上げる「らせん Spiral」から「リズムと繰り返し Rhythm & Repetition」までの発音に続いて大きな声で復唱。みなさん、日本語と英語の両方を上手に発音することができました。
 次は、カメラの使い方の練習。各チームの仲間同士、お互いに顔を取り合い、写真の試し撮りをして練習しました。カメラは、4人チームにはチェキ2台、5人チームには3台が渡されています。1台に10枚のフィルムが入っているので、1枚は試し撮りで使ったあと、残りのフィルムのうちひとり4枚をパターンの撮影に使うことを約束して午前中のプログラムが終了しました。
チームの仲間同士で写真を取り合う
たんけんスタート
 昼食のあと、教育会館から大手門を目指していざ出発。大手門に到着すると、大手門チームとタコ石チームにわかれ、それぞれに股のぞきとパターンの撮影がはじまりました。
 多くの観光客がひっきりなしに入ってくる大手門。そのなかで股のぞきをするのかと、「やだ。絶対にやりたくない!」と言いはっていた子も、一人二人とやりだすと股のぞきで測りだしました。
大手門の高さ(入り口の扉の上まで)を測ろう
大手門の幅を測ろう
タコ石の高さを測ろう
タコ石の幅を測る大学生

 もうひとつの課題はデザインパターンを探すこと。大手門と天守閣は、多くの子が、対称、リズムと繰り返し、格子、直線と曲線などいろいろなパターンを見つけていました。大手門のなかから見上げた小屋組みにも着目して、対称やリズムと繰り返しがあることを発見した子もいました。タコ石では、石の表面に縦筋が見えることと、石の呼び名となっているタコの模様が見えることから、直線と曲線のパターンを見つける子が多くいました。
 このほか、お堀の石垣に格子やリズムと繰り返し、公園内詰所の門柱に格子、公園内の樹木や花に枝分かれや放射があることを見つけて写真におさめていました。
 通路脇に、石を割るときに矢(くさび)を入れる矢穴がいくつも開けられた石がありました。それを見つけて、「リズムと繰り返しだ」と言って写真に撮っている子もいました。
石垣に格子とリズムと繰り返しのパターンを発見

 たんけん終了後、天守閣を背景に、チームごとに、そして全員で記念写真を撮って公園をあとにしました。

報告ノート記入と発表
 教育会館に戻り、報告ノートに撮ってきた4枚のデザインパターンの写真を貼り、パターンの種類や撮った場所を記入しました。パターンのタイトルは、日本語と英語を併記している子が多く、酒井さんのミニレッスンやチーム内のコミュニケーションが表れていると思いました。裏面には、チームのメンバーで撮った記念写真を貼り、メンバーの名前も書きこみました。気づいた点や感想のほか、イラストを描いた子もいました。
大学生の報告ノート

小学生の報告ノート

 報告ノートが出来上がると、大手門とタコ石の実際の幅と高さを発表しました。
  • 大手門入り口 幅=5.5m、高さ=7.1m
  • タコ石 幅=11.7m、高さ(一番高いところ)=5.5m

 大手門チームでは、正解の高さ7.1mに対して7.98mと測った子や、正解の幅5.5mに対して5m、4.56m、4.66mなどほぼ正解に近い子も複数いました。
 タコ石チームでも、正解の高さ5.5mに対して、5.06m、5.15m、5.29m、5.8mとほぼ正解に近い答えがありました。幅については、どこまでがタコ石の横幅なのかわからなかったようで、途中までの幅を測った子も結構いましたが、なかには11.7mに対して11.52
mと、ほとんど正解の子もいました。
 子供たちは自分が測った寸法の脇に正解を書き込んでいました。
実際の寸法を発表

 午前10時から午後16時までの長丁場でした。しかも外は日差しが強く29度を超える暑さのなか、測ったり、写真を撮ったりのワークショップ、熱中症にもならずに無事に会場に戻ってくることができました。
 アンケートには、「大学生のおにいさん、おねえさんとなかよくなってうれしいし、大阪じょうに行けてとてもたのしかったです。ありがとうございました」「大学生のおにいさん、おねえさん、今日はいっしょにいてくれてありがとうございました!またあえたらいっしょにあそんでください!ありがとう」「いっしょにいてくれてありがとう。またどこかで会おうね。楽しかったよ」「最初、英語がわからなかったけど、きちんとわかりやすく英語で言ってくれて聞き取れたのでとてもありがたかったです」と大学生への感謝の言葉がたくさん書かれていました。大学生と小学生は、スタッフが思っていた以上に仲良くコミュニケーションがとれていたようです。

子供たちの感想/報告ノートやアンケートから
  • 大阪城、いつもとべつの見かたで見る事ができてとても楽しかった。その中でもタコ石を測るところが一番おもしろかった。
  • “対称”のデザインパターンはすぐにみつかったけど、“らせん”“放射”がすぐにみつからなかった。どれが枝分かれかわからなかった。タコ石がどこからどこまでか分からなかった。
  • みんなといっしょで楽しんでうれしかった。デザインパターンが思ったよりいっぱいあった。らせん、ほうしゃ、たいしょう、直線と曲線、こう子、えだ分かれ、リズムとくりかえし。ぜんぶは見つけられなかったけどおもしろかった。South Floridaのみんなといっしょにあそべて楽しかった。
  • 外国人の人と協力できたことが楽しかった。
  • いろいろなデザインパターンをさがすのが楽しかった
  • チェキで写真をとったことと、デザインパターンを知ってまた楽しくなった。
  • 股のぞきがおもしろい。
  • れきしが好きで、はくしきレベル(自しょう)なので、最初のほうに少しれきしの話があってよかったです。
  • むずかしかったけど楽しかった。またやりたい。つかれたけどやりきれた。
報告ノートに描かれたイラスト

保護者の声
  • 帰りの車の中でも、写真を見ながら楽しかった話や学んだ事を話してくれました。将来はホームステイをして、留学がしたいとコツコツ英語を勉強しているのですが、その成果が出て大学生の方とお話しできたと喜んでおりました。その反面、思ったように英語が出てこなくて話す事ができなかったから、もう少し喋りたかったと思い出して寝る前まで話してくれました。貴重な体験をさせて頂きありがとうござました。皆さんと撮ったお城の写真がお気に入りで大切にお部屋に飾られていました。
  • 子供たち、楽しかったようです。お土産いっぱいいただいててびっくりしました!特に原始的な寸法の測り方が面白かったそうです。
  • 本当に楽しかったらしく、帰ってからもめちゃくちゃ興奮しておりました。なかなかできない体験、素晴らしい機会を与えてくださって、本当に感謝です。運営やサポートの方々、フロリダの学生さん達、皆様ありがとうございました。娘は、来年の建築と子どもたちワークショップをすでに楽しみにしております。
たんけんを終え、天守閣の前でパチリ

課題出典:デザインの構成的原理/Architecchure and Children ©School Zone Institute
     塵劫記(じんこうき/江戸時代の算術書)
材料と道具:たんけんマップ、報告ノート、カメラ(チェキinstax mini)、油性ペン、
両面テープ、トートバッグ、メジャー、パワーポイント(デザインパターン、木の高さを見積もる)、スクリーン、マイク、パソコン