2024年5月17日(金)
5月18日のワークショップに先立ち、昨年に続いて船場の街歩きをしました。参加したのは南フロリダ大学ジュディゲンシャフトオーナーズカレッジの学生さん20名と、引率の酒井敦子さんとタナー・ランズデールさん、そして大阪、仙台、名古屋の9名です。
学生さんたちは、医療系が多いというので、船場のなかでも、くすりのまちとして知られる道修町を中心に歩きました。
除痘館記念資料室
除痘館記念資料室は、緒方洪庵が天然痘予防のために開設した除痘館の跡地に建てられた緒方ビルの4階にあります。昨年もお世話になった川上潤さん(緒方記念財団専務理事・事務長)に、緒方洪庵の足跡や天然痘根絶から治療薬の開発までの歴史などについて次のようなお話をいただきました。
- 1838年、緒方洪庵は蘭学塾「適塾」を開塾。江戸時代に諸外国との交易を230年間禁止していたために後れをとっていた日本を明治時代になって立て直す逸材が適塾から育った。その一人が福澤諭吉である。
- 江戸時代、将軍や大名は城に住み、武士は武家屋敷に住んだ。農業従事者は、大庄屋と呼ばれる豪農の住居、庄屋(名主)の住居、一般の農家の住居まで身分の違いにより住まいが違っていた。
- 商業従事者は、町家と呼ばれる住居に住んでいた。町家は、城下町など都市部に建てられた町人の建物で、通りに面して店があり奥に住まいがあった。
- 江戸時代は将軍が全国の大名を支配して、大名は領地内の農民、漁民、商人を支配していたが、大坂船場は大名ではなく将軍が直接支配していた。
- 30万人が住んでいた大阪を200人足らずの役人が治めていたので幕府の支配力が薄く、そのため大坂は住民主体の自由都市として栄えた。
- 全国の藩の蔵屋敷があり、各地の農作物 や海産物が集まる商業都市として栄えた。
- その中で淀屋常安は現物の米取引から伝票による帳合米取引を始めた。これが世界に先駆けて行われた先物取引の始まりである。
- 船場は、今から400年前に72m四方に区画整備されて背割り下水と呼ばれる下水道が完備されていた。
- 船場の町家は間口の幅を基準に課税された。税を軽減するために奥に細長くうなぎの寝床と呼ばれた。
- 適塾は、元は商店として使われていた家屋を改装して塾として使用したもの。
- 緒方洪庵の功績は、①1868年明治維新以後明治政府を多くの塾生たちが支えた 、②コレラの治療を進めた、③天然痘予防の推進 である。
- 適塾2階の塾生部屋は、塾生一人に畳一枚の場所が与えられ、昼夜問わずオランダ語の本を翻訳して西洋の進んだ医学、科学、工業技術等を吸収した。
- 成績優秀な者が明るい窓際の畳を占めた。
- 江戸時代は鎖国しており、西洋の進んだ文明は唯一交易を許されたオランダの交易拠点長崎の出島からもたらされた。オランダ語で著された本から内容を理解する上で使われたのが出島の商館長ヘンドリック・ヅーフが作ったヅーフ辞書である。
- 緒方洪庵はヅーフ辞書を使ってドイツのベルリン大学のフーフェランド教授が50年の臨床経験を著した『医学必携』を翻訳して西洋の進んだ医学知識を日本に普及させた。
- その中には天然痘の予防接種の事も書かれていた。
- 天然痘は少なくともエジプト王朝ラムセス5世(約3170年前)の時代から人類を苦しめてきた。
- イギリスの外科医エドワード・ジェンナーは、「私は搾乳しているときに牛の病気である牛痘病に感染しているので人間の病気の天然痘に罹ることはない」という搾乳婦の話をヒントに、牛痘種痘法による天然痘ワクチンを開発した。
- 天然痘ワクチンはこれまで牛痘ウィルスだと思われてきたが最近のゲノム解析で馬の天然痘の馬痘ウィルスが牛に感染し二次感染で人に感染したものが天然痘ワクチンとして継代されてきたものではないかと推定されている。
- 1958年天然痘根絶計画が開始され、1980年WHOが天然痘根絶宣言を出した。
- 米国では、バイオテロ対策として、天然痘根絶宣言後も多くの労力と莫大な研究開発費を費やして天然痘の治療薬の研究が続けられ、2018年、米国当局より初の天然痘治療薬が認可された。
3千年前から人々を苦しめてきたという天然痘。その天然痘と戦い、種痘を普及させて世界から根絶し、ついに治療薬まで開発してきた先駆者たちの偉業。そのなかのひとりが緒方洪庵でした。洪庵は除痘館を開設して種痘をはじめたものの、種痘をすれば牛になると人々が怖れるなか、多くの同志とともに普及に尽力したことが手塚治虫の長編漫画「陽だまりの樹」に描かれています。
除痘館があったこの地で、その歴史をうかがうことができました。英語の資料だけでなく、酒井さんの通訳を耳元で聞くことができる補聴器を学生一人ひとりに貸し出してくださるなど、川上さんには本当にお世話になりました。ありがとうございました。
講演する川上さん |
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