2022年8月4日木曜日

建築と子供たちプロジェクト2022「船場街歩き」

2022年7月17日(日)

7月18日のワークショップ「野菜の断面図を描こう」に先立ち、2つのツアーを行いました。はじめは船場の街歩きです。

船場は大阪城築城に合わせて生まれたまちで、北は土佐堀川、東は東横堀川、南は旧長堀川(現長堀通)、西は旧西横堀川(現阪神高速道路)に囲まれている、南北2.1㎞、東西1.1㎞、約230haの区域をいいます。

この地域に歴史的建造物がたくさん残っているということで、是非船場を歩いてみようということになりました。

参加したのは、仙台から5名、名古屋から1名、大阪から2名の計8名。案内役は大阪観光ボランティアガイド協会の藤井さんです。

集合場所は大阪市役所南玄関前。そこから、難波橋を東に見ながら土佐堀川に架かる栴檀木橋を渡り船場へ。

栴檀木橋から難波橋、生駒山を望む

<適塾・愛珠幼稚園>
適塾(旧緒方洪庵住宅・重要文化財)は、緒方洪庵が1838年(天保9年)に創設し、大村益次郎や福沢諭吉などを輩出した蘭学塾で、今もその姿を内北浜通りにとどめています。     
建物は、間口12m奥行き40m、通りに面して木造2階建ての塾(表屋)と、その奥に、中庭と木造平屋一部2階建ての住宅部分(主屋)があります。1915年(大正4年)に、前面道路の拡幅によって1.2mの軒切りが行われたそうで、軒先はかなり短くなっていました。
現在は大阪大学が所有し、一般公開されていますが、今回は残念ながら時間の関係で次回に持ち越しとなりました。
適塾正面外観
手前が適塾、奥が緒方洪庵の住宅
適塾
前面道路の拡幅で軒切りされた軒先

適塾横の路地に沿って高塀を巡らせた和風建築がありました。それが大阪市立愛珠幼稚園(重要文化財)です。この幼稚園は1880年(明治13年)に地元の連合町会が設立し、1901年(明治34年)にこの地に移転し建設され、のちに大阪市に移管されたとのこと。戦時中、建物疎開により取り壊される運命になっていたのですが、終戦を迎えそのままになり、現在まで明治の建物がこの地に残されることになったのです。現存する木造の幼稚園園舎としては日本最古のものだそうです。
内部を見ることはできませんでしたが、幼稚園とは思えない入母屋の大屋根の佇まいを眺めることができました。屋根の下にはどんな大空間があるのでしょうか。そして、正門脇には江戸時代の銅座の跡地を示すサインもあり、門の柱脚には金輪継ぎという継ぎ手も発見することが出来ました。

愛珠幼稚園正門

門柱の柱脚に金輪継ぎを発見する建築家2人

<グランサンクタス淀屋橋・オペラドメーヌ高麗橋・浪花教会>
次に巡ったのが、旧大阪農工銀行ビル(1918年(大正7年)築、設計:辰野片岡建築事務所)の外壁を保存して建築されたマンション「グランサンクタス淀屋橋」。現在の外壁は、1929年(昭和4年)に改築(設計:國枝博)されたもので、アラベスク模様のテラコッタで飾られています。その外壁を保存して、2013年(平成25年)に地上13階、地下1階のマンションが建築されました。この建物、建築制限上、外壁を後退させる必要があったため、600tもある外壁を曳家したというからすごい。
旧大阪教育生命保険ビル(1912年(明治45年)築、設計:辰野片岡建築事務所)は、外壁に赤レンガと白い花崗岩を使った建物。2021年まで結婚式場「オペラドメーヌ高麗橋」として活用されていましたが、残念ながら閉店になったそうです。一緒に歩いた大阪在住の方が「ここで結婚式をあげたんです」と懐かしそうに話していました。
グランサンクタス淀屋橋
1,2階の外壁は旧建物の外壁を保存したもの

グランサンクタス淀屋橋
窓周りや外壁上部のコーニスがアラベスク模様のテラコッタで飾られている

結婚式場だったオペラドメーヌ高麗橋
赤レンガに白い花崗岩の帯のコントラストが美しい

そして、オペラドメーヌ高麗橋のすぐ隣に、浪花教会がありました。この教会は、ウイリアム・ヴォーリズの設計指導で1930年(昭和5年)に建てられました。尖塔アーチの窓を持つ外観。窓から差し込む赤や青や緑の光が礼拝堂を柔らかく照らしているそうです。

浪花教会 尖塔アーチ窓が教会らしさを醸し出している

<芝川ビル
芝川ビル(登録有形文化財)は、船場の豪商芝川家の6代目当主芝川又四郎が、地震や火事に強い建物を、という思いから、1927年(昭和2年)に建築した鉄筋コンクリート造地上4階地下1階の建物(設計:澁谷五郎、本間乙彦)。自邸として使われるとともに、花嫁学校も開校していました。現在、飲食やブティックなどの店舗に利用されています。中に入ることはできませんでしたが、エントランスに入って内部を垣間見ることが出来ました。内外ともに竜山石(たつやまいし(凝灰岩))が使われており、そこに施されているレリーフが印象的でした。資料によれば、古代中南米風だとか。
竜山石は脆いので、外壁のレリーフは風化が激しかったため、2009年に復元されたのだそうです。

芝川ビル外観
芝川ビル 
入口上部に復元されたレリーフが訪れる人を迎える

<船場ビルディング・生駒ビルヂング>
船場ビルディング(登録有形文化財)は、1925年(大正14年)に建てられた、鉄筋コンクリート造地上4階、地下1階の建物(設計:村上徹一)。
まず目を引くのは、吹き抜けの中庭です。その中庭を囲むように4階まで回廊が巡っています。回廊に面して事務所や店舗など各テナントの入り口や窓が並んでいました。中庭には植栽があったようですが、訪れたときは工事中でしょうか、撤去されていました。
玄関ホールの床は、トラックや荷馬車を引き込むための工夫がされていてスロープ状に上っています。その床材は、騒音を少なくするために考えられたという木レンガです。

生駒ビルヂング(登録有形文化財)は、1930年(昭和5年)に、鉄筋コンクリート造地上5階、地下1階の生駒時計店の本店(設計:宗兵蔵)として建設されました。現在は、コンシェルジュオフィスとして使われています。外壁の褐色のスクラッチタイル、水平に伸びる窓台のテラコッタ、外壁から突き出た装飾、鷲の彫刻などが印象的なアール・デコ様式の建物でした。

船場ビルディング外観

船場ビルディング
中庭を囲むように回廊が巡っている


アール・デコ様式の生駒ビルヂング
3階から5階まで伸びる突き出た装飾
5階上部には「生駒」の「生」の文字が見える

生駒ビルヂング
2階窓台の上の鷲の彫刻

<旧小西家住宅>
塩野義製薬、田辺三菱製薬、小野薬品など名だたる製薬企業が集まっている、くすりの
町、道修町(どしょうまち)の一角に、旧小西儀助商店の「旧小西家住宅」(重要文化財)
がありました。
小西儀助商店は、1870年(明治3年)に薬種業を始めました。道修町がくすりの街になるきっかけになったと言われています。現在はコニシ株式会社となり、合成接着剤「ボンド」のメーカーとして全国的に知られるようになりました。明治36年から3年かけて建設されたという木造2階建て(元は一部3階建て、のちに3階部分を撤去)の表屋造り(表に店舗、中庭を挟んで奥に住宅)の建物。往時の姿をそのまま保存した住宅スペースや、店舗を改装した展示スペースを史料館として公開されているとのこと。次回必見です。

旧小西家住宅 史料館として公開されている

<三井住友銀行大阪中央支店・高麗橋野村ビルディング・新井ビル>
三井住友銀行大阪中央支店は、1936年(昭和11年)建築(設計:曽禰中條建築事務所)。正面列柱の柱頭はイオニア式、新古典主義様式の建物で銀行建築らしい重厚なデザインになっています。柱頭上部にある楕円形の飾りは、ローマ神話の商業の神メルクリウス(ギリシャ神話ヘルメス)の持ち物の杖を表しています。
高麗橋野村ビルディングは、旧野村財閥の創始者野村徳七が1927年(昭和2年)に建築した、鉄骨鉄筋コンクリート造7階建て(設計:安田武雄、7階部分は戦後の増築)の貸しビルです。外観は褐色で統一されています。資料によると、材料は、1階が凝灰岩とタイル、2階以上がモルタル掻き落しとのこと。腰壁は前方に傾き、堺筋と高麗橋通の両方に面するコーナー部はアーチ状に丸みを帯び、腰壁上部には瓦がのっていました。

新井ビル(登録有形文化財)は、1922年(大正11年)に、旧報徳銀行大阪支店として建築された鉄筋コンクリート造地上4階地下1階の建物(設計:河合浩蔵)。1934年に、新井証券株式会社が取得し、新井ビルと命名されました。1階は列柱と石張りで銀行らしさを出し、2階以上はタイル張りの軽快なデザインになっています。1976年、先代社長の新井真一氏が、この場所に8階建てのビルを計画したのですが、建築家・清家清氏や日本建築学会の要請を受け入れ、計画を白紙撤回し保存を決意。外壁を保存して内部をリノベーションするという保存スタイルのさきがけとなったのだそうです。現在は1、2階が洋菓子店、3、4階が事務所のテナントビルになっています。
三井住友銀行大阪中央支店 列柱の柱頭はイオニア式

高麗橋野村ビルディング
当時としては珍しい鉄骨鉄筋コンクリート造

高麗橋野村ビルディング
コーナー部はアーチ状になっている

新井ビル
1階は列柱を配した石張り、2階以上はタイル張りの左右対称形

<大阪証券取引所>
大阪証券取引所は、北浜界隈に集まる金融機関の要として昔も今も存在しています。旧大阪証券取引所の建物は、鉄筋コンクリート造地上6階地下2階(設計:長谷部・竹腰建築事務所)でしたが、2004年に旧市場館と外壁と内壁の一部を保存して全面増改築されました。外観は、新古典主義様式を簡素化したものだそうで、列柱が円筒形に並んでいます。外壁全体が花崗岩で覆われています。玄関ホールを入ると平面が円形と思いきや、実は楕円形。前面道路の堺筋と土佐堀通が直角に交わっていないため、その関係を調整するためだったらしいのですが、金運を呼び込む小判型にしたという説も。内部は全面的に大理石が使われ、縦長窓のステンドグラスが美しい大空間になっています。

大阪証券取引所外観

大阪証券取引所
大理石張り大空間の旧市場館

大阪証券取引所ステンドグラス
幾何学模様と、壺や花のデザインで構成されている

ここで街歩きは終了。猛暑の中を2時間もご案内いただいたガイドの藤井さん、ありがとうございました!

<街歩きPart2  少彦名神社・糸車の幻想>
まち歩きのあと、道修町の少彦名(すくなひこな)神社を訪ねました。健康の神、医薬の神として知られる神社です。ご祭神は、日本の薬祖神「少彦名命」と中国医薬の祖神「神農炎帝」。そのため別称は「神農さん」。さすが医薬の神を祀っているだけあって、参道脇には各製薬会社の名入り提灯がずらり。「とら」があちらこちらに飾られていました。とら年だからではありません。文政年間にコレラが流行り、疫病除薬を作って、お守りとして「張り子のとら」と一緒におくったところ、病気が平癒したといういわれがあるので、「とら」がお守りになっているそうです。「張り子のとら」は神社のお土産としても人気だとか。一緒に行ったネットワーク仙台のメンバーがさっそく買い求めていました。

くすりの町の守り神「少彦名神社」

ご神木脇の祠に吊るされていた張り子のとら

堺筋と本町通の角に、面白いものがあるというので行ってみました。遠目でも何かのモニュメントらしきものが見えますが、近づくと、外階段があり、その壁に商工信金ホールのサインが。それに従って2階に上ると現れたのは、様々な色の陶器のかけらやモザイクタイルで彩られた巨大なレリーフ。その前には水盤があり、そのレリーフが対称形になって水面にうつりこんでいました。このレリーフのタイトルは、フェニックス・タイル「糸車の幻想」。日本のガウディと称された建築家・今井兼次氏の作品です。
実は、このレリーフ、旧東洋紡本町ビルの屋上にあったもの。その場所に大阪商工信用金庫が本店ビル(設計:安藤忠雄建築研究所)を建てることになり、旧ビル解体にあたり、このレリーフを見たプロデューサーの安藤忠雄氏から「これは大阪の文化財だ」と保存を提案されたとのこと。そこでだれでも気軽に立ち寄れるようにと低層部に3D技術を用いて再生復元、2017年9月に完成しました。
中央が糸車で、その背景には波打った織物らしきものが。それは、文字や数字、人の顔、ひょうたん、そろばん?など様々なものをまとっていました。そして気になったのが糸車から突き出ている尖塔と、その左右にある2つの丸いもの。
のちに調べたら、尖塔の頂部にあるのは月、左右には、左に織姫、右に彦星、その間を結んでいるのは天の川とあり納得。糸車は宇宙の夢を見ていたのでしょうか。
そして、その夢よ天まで届けとばかりに、空まで遮るものがない空間として歴史を紡いだ大阪商工信用金庫さんはじめ関係者の皆さんの心意気に感動しました。

フェニックス・タイル「糸車の幻想」
糸車から突き出た尖塔の頂部は月、尖塔の左に織姫、右に彦星、その間を天の川が流れている

<街歩き感想>
  • 大阪へは何度か行った事がありますが、今回の街歩きを経験した事で、初めて大阪のまちを知る事ができた気がしました。とても良かったです。
  • 時代時代の社会情勢に合わせて新しいものを取り入れながら、歴史的なものを後世に繋いでいくという船場の人たちの考え方や姿勢が素晴らしいと思いました。もう一度ゆっくり歩いてみたいです。
  • 船場の建築は有名なので、以前に、個人で見て歩いたことがありました。しかし、ガイドさんに説明してもらうと、時代背景やローカルな事情と合わせて建物を見ることができ、有意義な街歩きをさせていただくことができました。
  • 中之島エリアから少し南へおりて、北浜エリアまで。何度も訪れたことのある街ですが、町の成り立ちや歴史を織り交ぜた詳しい説明を受けながら歩くと、また違って見えるような気がしました。多くの近代建築が今も使って生かされていることに大変感動しました。またそれぞれの建物をあらためて巡りたいと思います。愛珠幼稚園が現在まで残っている奇跡に感動しました。船場の人々が私財を投じて建て、戦時中の建物疎開を免れ、今も現役でこどもたちが通っている。この町や人々と共に在る姿は素晴らしいと思います。
  • ちょうど愛知県瀬戸市にある国登録有形文化財の修復工事を終えたばかりだったので、どの建物も大変興味深かった。ご説明で、大阪では建物の持ち主が積極的に文化財へ応募すると聞き、維持管理や使い勝手などマイナス面を飛び越え、古い価値を良い意味で積極的に自慢する文化が根付いていて、東京や名古屋と違う上方文化の良さを勉強させられました。ちょうど午前中に京都をブラっとしていたので、関西に共通する考え方なのかもしれません。歴史と共に生活があるというような。建物の長寿命化は環境問題の大きなテーマでもあります。また、一つ一つの建物は点でしかないかもしれませんが、それらが街の構成要素であるのも確かで、薬屋さん街などそれぞれの建物がシームレスに影響し合い、さらに街と街が繋がっていって全体で良い影響をしあっていると感じました。他の伝建指定を受けた街などが、生活が無くなり観光お土産の街になってしまったり、文化財指定をうけると修繕負担できず自治体に売ってしまい、生きていない「○○家住宅」などの展示施設になってしまう例が多々見られますが、大阪ではそのような文化財建物はごく少数で、建物も街も生きていたのも印象的でした。

参考資料:
  • 船場マップ2021(船場ナビ)
  • [オオサカにぎわい発見]デジタル版中央区にぎわいパネル集(大阪市中央区役所)
  • 各建物ホームページ及び各種関連資料

2022年8月3日水曜日

建築と子供たちプロジェクト2022「デザインパターンってなあに?」

2022年6月26日(日)

今日は、ハイブリッド型ワークショップの3回目です。

会場のβ本町橋には小学3年生1名と大人3名、オンラインには大人5名が参加しました。

はじめに、進行役の細田牧江さん(建築と子どもたちデザインLABO関西)から、建築デザイン教育で考える力を養い、コロナ禍においてだれでもいつでも建築デザイン教育へアクセスできる環境を構築することなど、このプロジェクトの目的について説明がありました。

その後、本日の演習に移りました。指導はネットワーク仙台の永野ますみさんです。

まずは、建築と子供たちデザイン教育体験ビデオ「デザインの構成的原理」の前半部分を視聴。「デザインの構成的原理」とは、物事の秩序や仕組み、デザインの形や構成を整理整頓し、デザインを組織的かつ体系的に考えるための原理のことで、その多くが自然の形に由来しています。

ビデオでは、指導者のライラ・デウィントさん(スクールゾーンインスティテュート)から、自然の形の中には、らせん、放射、分岐、対称、格子、直線、蛇状を含む曲線、それらが組み合わさってできる垂直、水平、対角、平行、ランダムなどのパターンがあり、それらが建築にインスピレーションを与えていること、そしてそれらのパターンを使ったデザイン体験をすることがこの演習の目的であるとのお話がありました。

ここで一端ビデオを止め、テイラー博士の作ったパワポ「Design IN Nature」の一部を視聴してもらいながら、永野さんから、自然界にある様々なパターンとそれらがどう建築に使われているかを対比しながら解説。会場にはトウモロコシや小枝、巻貝、ヒトデなどの自然物が用意されています。「ルーペでのぞくと中に思いがけないパターンが隠れていることがあるのでよく観察してスケッチしてください」と指示がありました。参加した方々は、トウモロコシは格子、巻貝はらせん、ヒトデは放射などそれぞれのスケッチにラベルも書いていきました。オンラインの人は、「Design IN Nature」にある自然のパターンをスケッチしましたが、なかにはルーペとドクダミの葉っぱを準備してきて、葉っぱの中に分岐が隠れていることを発見した方もいました。

スケッチが終わったところで、いよいよ作業開始です。見つけたパターンを、5㎝四方の黒い紙30枚を使って、A3の白い紙の上にデザインしていく活動です。最初にいくつかのパターンを並べてみて、そのなかから気に入ったものを選んでノリで貼っていきます。

巻貝、トウモロコシ、ヒトデをスケッチしてパターンを探しました

見つけたパターンを使ってデザインしています

こうして出来上がった作品を見せながら、どういうところを工夫したか、気づいたところは何かなどお互いに発表しあいました。

発表後は、ビデオの後半部分を視聴。ライラさんが実際に黒い紙を使ってパターンづくりの実演をしているところと、アメリカの子供たちなどの作品例を見て、デザインパターンについて再度確認しました。

<作品一覧(抜粋)>
らせん

らせん

格子

格子

格子・ランダム

直線・並行

蛇状・平行

蛇状・平行

<感想(抜粋)>
  • 四角い紙をいっぱい貼ると、ぐるぐる(螺旋状)の方向がわからなくなってしまった。みんな全然違う絵になったなと思った(小学3年生)。
  • zoomで以前も体験しましたが、前回と違うパターンで取り組んだのもあり、また新しい気持ちで取り組めました。自然物からデザインパターンを見出すのが以前よりも上手になったように感じました。
  • オンラインではなく、実際に集まってやる良さみたいなのを感じました。手を動かしながら、お互いの作品を覗きながら、作品についてや、作品と関係がないような雑談をしながら新たな発見をする、っていう温かいやりとりにほっこりしました。
  • オンライン参加でしたが、会場の人たちの様子が分かりにくいところもありました。逆に会場参加の人たちは、オンライン側の人たちの手元を見ることができなかったと思います。同じWS をやっている一体感はありましたが、作業の時に手元を写せるようにカメラの位置を変えるとかして、互いに他の人の作業の様子を見ることができたら、より楽しいかもしれませんね。
  • 皆さんの作品の自己解説が好きです。約30分間の思考の流れみたいなのが垣間見れるのが楽しいです。自分でテーマを決めても思うようにならないのが、毎度難しいなと思います。
  • 切り取ったとしても、ポジティブフォームをまず考えてしまうので、ネガティブスペースが生きる形をもう少し考えられればよかった。
  • 同じ形から始まっても、出来上がったものが全く違うというところが今回もおもしろく、各々の考え方、捉え方に発見がありました。
  • 完成した後に見てみると、自分が意図したものではない新たな面白さが見られ、いい発見ができました。他の方の作品を見て、それぞれ色んな規則性を持たせているのが見てとれて大変勉強になりました。

2022年8月2日火曜日

建築と子供たちプロジェクト2022「ポジティブフォーム ネガティブスペース ってなあに?」

 2022年5月28日(土)

ハイブリッド型のワークショップの2回目は「ポジティブフォーム ネガティブスペース 
ってなあに?」です。β本町橋には、小学3年生1名、大人5名が集まりました。
オンライン側は、ネットワーク仙台のメンバー含めて大人6名の参加です。
はじめに、進行役の細田牧江さん(建築と子どもたちデザインLABO関西)から、このプロジェクトのコンセプトについて以下のように説明がありました。


建築と子供たちプロジェクト2022のコンセプト
・建築デザイン教育で考える力を養う
建築は、科学(science)、技術(technology)、工学(engineering)、芸術(art)、数学(mathematics)を含んだ総合的なデザインであり、建築デザインを教育に生かすことは、STEAM教育そのものである。建築デザイン教育で子供たちの考える力を養っていきたい。
・コロナ禍における建築デザイン教育の在り方 
2021年に実施した建築家、教員、保護者等を対象にしたオンラインでの建築デザイン教育プロトタイプワークショップを発展させ、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型のワークショップを行う。このことにより、だれでもいつでも建築デザイン教育へアクセスできるような環境を構築したい


その後、本日の演習に移りました。指導はネットワーク仙台の永野ますみさんです。
はじめに、建築と子供たちデザイン教育体験ビデオ「ポジティブフォーム ネガティブスペース」の前半部分を視聴。指導者のライラ・デウィントさん(スクールゾーンインスティテュート)から、ポジティブフォームとネガティブスペースとは何かについてと、建築デザインはポジティブフォームとネガティブスペースに基づいていることを学ぶことなど演習の目的や必要な材料などについてお話がありました。
ここでビデオを一端止めました。流れていくビデオの字幕を追うだけで内容を理解するのは難しいのではないかということになり、今回ビデオ前半の視聴後に演習内容について、永野さんから改めて説明することにしました。
「ポジティブフォームは形があるものです。建築でいえば、壁や床や天井などで、手で触れるものです。固体なのでポジティブと表現します。ネガティブスペースは、ポジティブフォームに囲まれた何もない空間で、そのなかに私たちはいます。空間は、固体が不在なのでネガティブと表現します。ネガティブスペースは建物の外にもあります」
次に拡張の説明。「拡張というのは、ポジティブフォームの中にネガティブスペースを取り込み、元の形より大きく新しい形を創り出すことです」。ここで黒い紙で覆われた鳥かごを取り出し、「鳥かごを建物とすると、黒い紙が壁でそれをはずすと、中と外のネガティブスペースがつながります。ネガティブスペースが拡張したのです」


鳥かごは壁で囲まれています

壁をはずすと中と外のネガティブスペースがつながります

そして、いよいよ作業開始です。直径15㎝の円形、各辺15㎝の正三角形と正方形の3種類の2次元の形を使ってポジティブフォーム とネガティブスペースを表現します。それぞれハサミで小さく刻んで白い紙の上に隙間を開けながら元の形が拡張したように並べてみて、気に入ったところで止めてノリで貼り付けます。ここでは黒い紙がポジティブフォーム、背景の白い紙がネガティブスペースになります。
制限時間は30分、会場側もオンライン側も黙々と作業。やがて全員の作品ができあがり、順番に発表していただきました。
「円を刻んで並べてみたらアンモナイトのようになった」「洋裁をしているので、すべてが洋裁で使うパターンを開くようになった」「四角を切って横にしていたが縦にしてみたら川の流れのようになった」など、皆さん思わぬ変化に驚いたようです。
発表では、子供代表のT君が、ときどき「ダンゴムシ!」「すべり台!」「ブラボー!」「きれい!」など作品を“講評”、会場側もオンライン側も和やかな雰囲気に包まれました。
発表後は、ビデオの後半部分を視聴。ライラさんの実演と、ライラさんが指導した小学2年生の作品を見て今日の演習を振り返りました。
最後にライラさんが見せてくれたのは、貝や葉っぱなど自然の形に見えるところが好きだというシドニーオペラハウスの、普段は見ることができないシドニー湾からの眺め。実物の建物と水面に反射した建物が対称形になっていることや、大きなガラスの開口部により内部のネガティブスペースが拡張して、外部のネガティブスペースと一体になっていることがわかりました。

2年生の作品を紹介するライラさん

「どんな風に切ろうかな、どんな風に並べようかな」と考えながら作業しました


<T君の感想>
  • 切るのが楽しかった。のりで貼るのが難しかった。英語の動画が難しかった
  • 切った紙を並べると色んな形になるなと気付いた
  • 他の人の(作品)がダンゴムシやお花の形に見えて面白かった

<大人の感想(抜粋)>
  • ワ-クショップはとても楽しかったですが、ネガティブスペ-スとポジティブスペ-スの説明は、抽象的概念が難しい子どもには難しかったかもしれません。でも、その理解とは関係なく、ワークショップは小さな子どもも問題なく参加できると思いました
  • どのくらい切り刻むか、切り刻まないか、試行錯誤したことが、難しくも楽しかった
  • 切った紙を裏表どちらかに統一して並べたいのに、途中で見分けが困難になり、パズルみたいに頭を使い刺激になりました。無心で並びを考える時間が楽しかったです
  • 紙を細かく切って丁寧に配置した作品が印象に残った。作品によって上からの視点に見えたり横からの視点に見えたりするのが面白い。
  • 形と空間という3次元をイメージして、平らな白い紙の上に平らな黒い紙で2次元構成するということは難しく、必然的に黒いポジティブフォームのイメージが強いので、黒い切り紙のグループが何に見えるかということにこだわって、そのすき間の白い“ネガティブスペース”をつい忘れがちになってしまう、ということに改めて気がつきました

作品一覧(抜粋)
黒い形と白い空間がコラボした作品の数々。どれも個性豊かに表現されています。
<円形の拡張>



<三角形の拡張>




<四角形の拡張>




2022年5月29日日曜日

建築と子供たちプロジェクト2022「視覚言語とコミュニケーション③」

 2022年4月24日(日)

この日のワークショップ(開催概要・シャボン玉の一生ネジ巻おもちゃの仕組み図)を終えた参加者の感想と、アン・テイラー先生からのメッセージを紹介します。

<子供たちの感想>

  • おもちゃのしくみをかんがえるのがむずかしかったです
  • しゃぼん玉を丸とやじるしで表すのを、やじるしの形を変えたりして表せた
  • ねじまきおもちゃのしくみとうごきがどんなんかとか、しゃぼん玉のしぬまえとかをかんがえておもしろかった
  • 〇をかいたのがめちゃくちゃたのしかったです。やじるしを書くのがむずかしかったです。シャボン玉をよく見てかんさつしました
<大人の感想>
  • 色んな年齢の、色んな方々と一緒に受講できるというところがとても面白いと感じました。自分や子どもが課題に取組む過程ももちろんですが、皆さんの作品を見ることで得られるものが沢山あるなぁと大変良い勉強になりました。
  • 自分の考えを図に書き出すことの難しさに改めて気付かされました。【考える→書き出す→再考する】の作業を鍛えて、アイデアの整理に活かしたいなと思います。
  • イメージを視覚化するのが頭の体操になってよかった。2つ目の課題が何を表現すればいいのか、わかりにくかった。すべての動きを繋げて描くのか?と思ったが、回答事例は各々の動き(しくみ)を別々に描いてもよかったようなので。
  • 子供には難しそう…と思ったことを、小さい子(2年生)ほど気負いもなく取り組めることに驚きました。5年生は、うまく描けない…と引っ掛かっていて、その違いにも驚きました(年齢のことだけではなく性格にもよるかもしれません)
  • これまで、動くものの仕組みを考えて描くということをしたことが無かったのでとても新鮮でした。作品の例をほぼ見ずに取組むので、どう描いていくのか考えるのが難しかったです。でも例を見てしまうと、その後の発想まで手本に寄ってしまうと思うので、やはり例は先に見ない方がいいなと個人的には思います。
  • 初めに、どのようなことをしに行くのかを子供に説明するのが難しかった。始まりの説明が難しい言葉ばかりで、子供たちが楽しめるか不安になった。動画の日本語字幕が、子供達には理解できないのでは?と思った。大人の心配をよそに、すんなりと絵に取り組む子供達を見て楽しかったです。また、自分の描けなさにびっくりしつつ、わからないけど描いてみる、という経験が面白かった。
  • 率直な感想は、ハイブリッドワークショップの可能性を実感した。設備環境が整っている場所が前提となるが、活用に慣れれば、活動範囲に縛られず、効率的なワークショップ運営・開催にもつながるのでは感じた。パソコンを使っての講義は、大きな声で話す必要もなく、デジタル資料を上手く活用すれば、対面で行うよりも教えやすいと感じた。対面側の指導者やスタッフと協力して、ビデオやマイクを使いこなせるようになれば、リモートでも参加者の様子をそれなりに把握できるのではと感じた。


<テイラー先生から参加のみなさんへ~おもちゃの仕組み図を終えて~>


完璧である必要はありません
あなたは、今いろいろ考えているでしょう
私たちは、その思考のプロセスに関心があります
思考力のある人が求められる時代は確実に来ています
いつの日か、エンジニアになりたい人もいるでしょう
建築家や、何らかのデザイナーになりたいなどの職業選択を
あなたの先生が手伝ってくれることもあるでしょう

私たちの社会が必要としていることはたくさんあります
そして、それらのすべては持続可能なもので
ゴミ捨て場に行ってしまったり、土に埋められたりしません

クライアントについて考えなければなりません
だれがクライアントで、そのクライアントのニーズ・需要に合わせて
どのようにデザインをするか考慮する必要があります

建築と子供たちプロジェクト2022「視覚言語とコミュニケーション②」

2022年4月24日(日)

● ネジ巻おもちゃの仕組み図

シャボン玉の次は、ネジ巻おもちゃの登場です。今度は、おもちゃを動かしている内部の仕組みを考えて描くという課題です。

最初にテイラー先生のビデオを視聴してもらいました。除雪機、カブトムシ、宇宙船などのネジ巻おもちゃの前で先生は、「これらのおもちゃも、エンジニアがデザインしないといけませんね。ですので、おもちゃのエンジニアになったつもりで考え何がこのおもちゃを動かしているのか、その仕組みを想像し仮説をたててほしいと思います」と呼びかけました。

永野さんも、ハエをのせて舌を出したり引っ込めたりしながら歩くカメレオンのおもちゃを取り出して「何がこのカメレオンを動かしているのかを考えてください」と問いかけました。しかし、子供たちは、話はそっちのけで、おもちゃ遊びに夢中。ハネをパタパタ動かしながら前に進むトンボ、ひっくり返りながら行ったり来たりする車などと、ひとしきり遊んだあと描き出しました。ときどき、ジージーとおもちゃが動く音や、ネジを巻く音が聞こえます。ひっくり返りながら動くおもちゃでは、下から飛び出す板でひっくり返り、それが内部の歯車と連動して動くと考えた子、板が飛び出して転がる様子を大きな矢印で描く子など、みんな想像力を働かせていました。

最後に、活動を見守っていたネットワーク仙台の渋谷セツコさんが、「おもちゃの動きを生み出す見えない力を目で見えるように描くという体験をしましたね。きっと明日から世の中のモノが違って見えてくると思います」と締めくくりました。

集中して取り組んでいます

<描いたネジ巻おもちゃ>

後ろにひっくり返る飛行機

ひっくり返りながら前後に動く車

ハネをパタパタさせて動くトンボ

ぐるぐると回ってひっくり返るテントウムシ

体をくねらせて踊る人(前)
体をくねらせて踊る人(後)

<子供たちの作品>
ネジと連動した歯車が、タイヤを動かす歯車につながり、タイヤにつながっている板が飛行機をひっくり返させると考えました


飛行機(上)と車(下)が回転したり、進んでいく様子を太い矢印で描きました

トンボのハネと走る仕組みの動きを別々に描きました

ぐるぐると回るテントウムシの動きを矢印で描きました

<大人の作品(抜粋)>
後ろのネジを巻くとお腹のなかのゼンマイ?がお腹を左右にゆすり、関節がピンになっている頭や腕や足がくねくねと動く

ネジに連動する歯車が、横向きの歯車を動かしてテントウムシがぐるぐると回る

タイヤが回ると、タイヤにつながった棒が上に上がってトンボのハネを持ち上げる

バネの伸縮やゼンマイの回転の力で、飛行機が起き上がって後ろに転がる

建築と子供たちプロジェクト2022「視覚言語とコミュニケーション①」

 2022年4月24日(日)

昨年のオンラインプロジェクトに引き続き、今年度も、建築と子供たちプロジェクト(主催:建築と子どもたちデザインLABO関西、共催:ネットワーク仙台)を実施します。

デザインLABO関西では、今年度から、建築と子供たちデザイン体験教室「MANAVIVA」(“学び”+“VIVA“(スペイン語で生きる)+“場”の意味)を定期的に開催することになり、今回はその第一弾です。

建築家はデザインのはじめに、人や物の動き、音の拡がり方などを簡単な図に描きます。こうした図で表現される〇(バブル)や矢印などの記号は、目で見てわかる言葉なので視覚言語と呼ばれています。今回のワークショップでは、アン・テイラー先生による建築と子供たちデザイン教育体験ビデオの「視覚言語と概略図」を使って行いました。

昨年は、オンラインのみのワークショップでしたが、今回は、対面とオンラインのハイブリッド型です。大阪側が会場のβ本町橋(大阪市中央区本町橋4-8)に、小学2年生2名、小学3年生1名、大人5名の計9名が対面で参加、仙台側は4名がオンラインで参加しました。

はじめに、デザインLABO関西の細田牧江さんから、ルービックキューブと、ルーブリックキューブ註1を比較したパワポを見せながら、「ルービックキューブでは、色ごとにきれいに整頓されるので、国語、算数、理科、社会などの教科に分かれた学習を示すと考えられるのに対して、ルーブリックキューブでは、色がきれいに整頓されていないことから、総合学習を示している。私たちの社会は総合的に出来ているので、そういう学習をやっていきたい」という、建築と子供たちプロジェクト2022の趣旨説明がありました。そして、今日のワークショップをオンラインで指導する永野ますみさんにバトンタッチ。

●シャボン玉の一生

永野さんから、建築デザインでは実際に視覚言語を使って構想を練っていることを説明したあと、最初のプログラム「シャボン玉の一生」に進みました。これは、シャボン玉が生まれてから弾けて消えてしまうまでを描くものです。はじめに、テイラー先生のビデオの前半部分を視聴してもらいました。先生は、「建築家がデザインを考えるときに、ひとつの部屋をバブル(泡)で表し、どこにどういう部屋を配置しようか、などと考えながら、図を描いていきます。それと同じようにシャボン玉もバブルで描いてください。そして、シャボン玉の動きを矢印で表してほしい」と、実線、二重線、真っすぐな線、ぐるぐると曲がった線など、矢印のいろいろな種類を実際に描いて見せました。

「シャボン玉が生まれてから大きくなり、重力の影響で落ちていき、最後にポップとはじけて消えるところまでを描いてください」とテイラー先生

ビデオの視聴が終わるとさっそくシャボン玉の一生にチャレンジです。「シャボン玉は全部で10回吹きます。5回まではただ見るだけで、あとの5回が吹き終わるまでに描いてね」と永野さん。大阪の会場ではシャボン玉が空中をいろいろな方向に飛んでいます。子供たちもよく見て描いている様子が画面から伝わってきました。全員の作品が完成すると発表です。子供たちは「小さいシャボン玉は早くこわれる。大きいシャボン玉はゆっくり落ちる」など鋭い観察眼を披露していました。

註1:総合的な教育とアメリカの学習指導要領ルーブリックを合わせてテイラー先生が考案したもので、色がばらばらに混じっているキューブを指す。

<子供たちの作品>
 


いろいろな大きさのシャボン玉と、それらがどう動いたかを示す矢印の使い方、ポップが良く描けています

<大人の作品(抜粋)>


シャボン玉のゆったりした動きが伝わってきます