2021年12月25日土曜日

ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021 ~オンラインでつなぐ建築と子供たち~③ 講演 part2

 ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021
~オンラインでつなぐ建築と子供たち~

2021年10月24日(日) am9:30~11:00 


< 講演「建築と子供たち~創造性を育む教育法について考える~」part 2 >


●スタジオ:創造的な教育とその環境

次に創造的な教育に必要な環境とは何かと言いますと、スタジオ形式のものを建築と子供たちは利用しています。子供たちが中心で、教える側は、先生というよりファシリテーターとして、子供たちの行動をサポートしてあげるということが多いです。


●親としてのアプローチ

 ここからは、2019年の大阪のワークショップのときの質問内容も取り込んでいます。親として何ができるのかという質問がありましたが、どうやって子供が遊べる環境づくりができるかを考えてほしいと思います。それから遊びの楽しさですね。子供は勝手に好きなようにできます。それをなるべく触らずさせてあげる、失敗させてあげる、失敗を恐れない、失敗したらそこからどうやって戻せるのか、先に進むかを教えてあげないといけない。そして自分たちで行動し、判断してもらって、それがよかったのかどうか考えてほしい。そのためには、子供の話を聞いてあげたり、子供なりの理屈を聞いてあげたり、そういうことがとても大切です。そして、子供の違う面、成績表の5科目で見えないものを見て、それを少しずつサポートしてあげる、例えば考え深さとか、共感力とかを見てあげる、そういうところに面白みがあると思うのです。

アルバカーキのサマーキャンプで

●子供と環境:デザインプロセスと思考
子供というのは、私たちが思う複雑な環境は見えていないと思うのです。私たちは、空間とか環境といった漠然としたコンセプトを、生まれてすぐ把握できるわけではありません。以前、幼稚園のプロジェクトで、4−5歳の子供たちにカメラを渡して、私はその後ろからついていきました。ブロックの間を行ったりして、大人みたいに真っすぐ歩かないのです。
そこで気づいたのは、子供はモノとか人を中心に見ているということです。先ほど話したネガティブスペースは見えていないのです。自然環境とか文化的環境とか、そういう複雑なものになると、すぐ学べるというわけではないのですね。ですから、敷地の分析をする、観察する、データを分析する、研究する、アイデアを出してまとめる、問題解決をするというデザインを通して、モノから内部の空間について、または文化的なものを学んでいくわけです。そうしたデザインプロセスを学ぶことによって思考力も養われます。デザインの力というのは、考える力でもあるのです。このようにして複雑な環境というものを子供たちは理解できるようになると思います。
デザインプロセスを学んで思考力を養う


●建築と子供たち体験による子供たちの変化のエピソード
ニューメキシコ州立大学付属幼稚園で、4~5歳の子供たちに紙の構造を学ぶというプロジェクトを行いました。4~5歳に建築を教えるのはとても難しいことです。最初の1年はかなり苦労して、はじめの30分は名前を書くだけで終わったこともありました。ある男の子の作品は、筒になっている上の棒が伸びたり下げたりできるのです。難しそうだったので、手伝おうか?っていったらダメって言われて、絶対触らせてくれませんでした。でもその日、家に帰ると、仕組みを親に話しだしたらしくて、次の日、お母さんが、何があったのかとびっくりしてやってきました。建築と子供たちでよく驚かれるのが、子供たちが自分の作品について、いかによく話せるかです。よく「うちの子、こんなにしゃべるとは知らなかった」という方が結構います。

●教育とのかかわり:体験と教育
建築と子供たちは、教育につないでいけば深みを出すことができます。例えば、橋を作ったとき、橋が壊れるまでテストをして、単に面白かったという体験だけで終わらせることもできるし、そこから一緒に絵を描いて、どこが弱かったのか、どのように壊れたのか、どのくらいの重さに耐えたのかなど分析できるように指示した場合では子供たちの学びの内容はかなりかわってきます。
どこまで、何を学ばせるかを、私たち教える側がしっかり考える必要があります。
橋を壊すテストをしたあとに、どこが弱かったのかなど分析させると学びの内容が深くなる

●ワークショップの心がけ、工夫、ポリシー
ワークショップの心がけとしては、何をしようとしているのか、何が一番大切なのか、何を学んで体験して考えて制作してほしいのか、ということを子供たちに伝える必要があるということと、教師としてより、ファシリテーターとして行動することです。そうするためには、子供もファシリテーターもお互い考えていること、意図を伝えなければなりません。それは面白いことでもあり、難しいところでもあります。子供に行動させる、決断してもらう、責任をとってもらう、それをあとで判断してもらう、それがとても大切なことだと思います。
そして自分だけで解決できないところはみんなで協力してチームワークを通して考えてもらいます。

工夫やポリシーとしては、
  • アン先生は、鉛筆を使わせません。子供は失敗を恐れて、消す方に力をいれてしまうので鉛筆を渡さず、マーカーを使わせます。そうすることで自分の考えの記録、学んだ記録を残すことができます。
  • トレーシングペーパーを利用してアイデアを重ねることを学びます。
  • 言い方を良く考えないといけません。例えば、橋のデザインだったら、「橋をデザインしてね」と伝えると、ゴールデンゲートブリッジとか今まである橋を利用しようかなと考えてしまう。例えば「AとBを渡すものを考えてね」と言うだけでも子供の出来具合がかなり違ってきます。
  • 絵が難しいという子供もたくさんいます。ところが模型を作り出すと模型のほうがやりやすい。模型ができたら絵に戻すとかいろいろなやり方があります。今まで子供が表現できなかったことを、3次元をうまく利用することで表現ができるようになります。
  • 色はとても大切です。特に小さい子供にとって色があったほうが良いときと、悪いときがあります。色があると色だけに執着してしまうこともあるし、色がないほうがわかりやすいときもあります。

●ネイティブアメリカンの建築と子供たちプロジェクト
コチティプエブロ「ネイティブ語サマースクール」
建築と子供たちには、基本版があるのですが、プロジェクトによって違うものができます。環境について教えたり、デザインを教えたり、またはデザインプロセスの一部であることもあります。例えば、ニューメキシコには、ネイティブアメリカンが結構いますので、その人たちと一緒にワークショップをやる機会がありました。
サンタフェとアルバカーキの間にコチティプエブロがあります。このプエブロでは、プラザを囲んで住んでいたのですが、ある時期、アメリカ政府が新しい家を建てるというサポートをしたため、みんな外に出て行ってしまったのです。そして、みんなが集まるための伝統的なプラザが段々利用されなくなり、修理もされなくなってひどい状態になっていきました。ニューメキシコ州立大学の建築家や都市・地域計画家たちが手伝って、それを直すにはどうしたらいいかを地域の皆さんと考えていったのですが、そのなかで未来の子供が何をしたいのかという話になって、建築と子供たちの私たちが呼ばれたのです。
アドビ建築のコチティ教会

このワークショップは、言語を教えるのに使ってほしいということでした。
2週間のプロジェクトでしたが、最初の週は、ネイティブ語のサマースクール用のプログラムを先生と一緒に作ってほしいということでした。ところが、実際にネイティブ語について先生方によく聞いてみると直訳がないのです。英語をそのまま利用していたり、家の部位を表す言葉はスペイン語でした。しかも、ネイティブ語は聖なる言葉なのでだれも書いてはいけないというのです。そういう難しい制限がありました。仕方がないので、英語で書いてどんなものに直訳があるのかを皆で話し合いました。例えば丸という直訳はあるけど、四角がなかったのです。じゃあどうやって表現するかとなって、年配の先生が「four corners」と提案しました。そのようにどんどん作っていかなければならないという状態でした。書かないものですから、オーラル・ヒストリー(口述歴史)がよく利用されるのですが、昔の話を年配の先生方から教えてもらい、それを聞きながらダイアグラムに表現して、今と昔の生活の違いについて考えたりしました。コチティプエブロは、芸術的な人たちが多くてとても楽しかったです。
このプロジェクトでは、伝統的な建物の作り方も習いたいということで、子供たちに紙でアドビ建築の模型を作ってもらい、さらに現代の生活とどう合体できるかということをデザインしてもらいました。伝統的なものは茶色の紙で作り、それをいかにモダン化しているかということを考えて、そこは違う色で表現してもらいました。

ズニプエブロ「メインストリート・サマーデザインキャンプ」
ズニプエブロは全然違ったプロジェクトです。このプエブロのメインストリートをもう少し工夫したいということでした。というのは辺ぴなところなので、人がどんどんいなくなってしまったのです。若い人たちがほかに仕事を見つけてプエブロから出て行ってしまうのでプエブロにビジネスを持ってきたい、それにはメインストリートを充実させたいという目的で、子供たちに考えてもらう5日間のサマーキャンプを行いました。
 パターンを使ってファサードをデザインしたり、公園のデザインをしたり、ズニアーティストのための多目的建築デザインモデルというのを子供たちに作ってもらいました。コチティと同じように茶色で伝統的な建物のファサードを作り、内部の壁画とかをモダンにしてほしい、そういう形で作ってもらいました。全部で4つのネイティブアメリカンのプロジェクトがありましたが、このズニとコチティプエブロが一番記憶に残ったプロジェクトです。

●創造力とは?
創造力というと、アイデアが一瞬にしてひらめくというように思われるかもしれませんが、何かを構築する力、想像する力、想像したものをまとめる力、見えないものを形にする力など、次のような様々な能力を駆使しようとする力と考えられます。
  • 行動力:デザイナーでも日々訓練しているし、長年かけて創造力を養っている
  • 何かを構築する力(見えないものと、見えるものの両方を含む)= デザイン力
  • 想像力(ないものを夢みたり、現状で満足せず次を探したり、改善することができる)
  • 収束的および発散的思考(いろいろなアイデアを出し、物ごとの詳細を考慮しながらも、シンプルに全体をまとめることができる)= 量産、スピード感、効率性
  • 観察力(見ることや感じることを大切にし、状況を把握することができる)
  • 形にする力(見えないものを、自分や他人に見えるようにすることができる)
  • 企画力(段取り力と計画性がある)
  • 問題解決力(問題を解決するだけでなく、利用することができる)
  • 柔軟性(曖昧なことやわからないことがあっても物事が進められ、様々な試行錯誤ができる)

●評価
そうした力をどのように評価するかというと、アン先生は、コミュニケーション力、想像力・革新力・創造力、プロセスの理解、細部と全体の美しさ、技術力など5項目の評価基準を挙げていて、それを建築と子供たちのポートフォリオアセスメントと呼んでいます。そこには1から5までの評価の段階があります。

このあと酒井さんから何か質問がありますか、との声掛けがあり、質疑応答を行いました。

●質疑応答(抜粋)
Q: 大人になっていくプロセス、あるいは大人が学び直すプロセスに言語化は大事だと思うが、これまでの経験から何か気が付かれたことがあれば教えてほしい。
A: アメリカは言葉で出来ている社会なので論理的に話せないと話にならない。幼稚園から、話して要求するということをしっかり教えている。オーナーズカレッジでは、私も医大志願者の推薦状を書き、学生も(志願書や奨学金申込書など)ものを書くことによって奨学金が得られたりするが、論理的に書くことができなければそれを得ることができない。日本が国際社会の中で成功したいとか、お互い理解してもらうためには言語化するということを学ばなければならないと思う。   
視覚も言語の一部であり、3次元の模型も言葉であるということを理解してどれをうまく使うかによるだけで、合体することもできるし、模型だけにすることもできる。3次元、2次元、言葉の3つ全てを表現するということが建築の強みであり、そこが教育の部分になると思う。

ミーティング終了後、参加した皆様からアンケートをいただきました。その結果を受けて酒井さんからお手紙を頂戴しましたので以下に紹介いたします。

アンケートから(抜粋)
  • アメリカ、日本国内で、活動している方々をzoomでつないで、話を聴くことができてよかった。
  • 建築と子供たちの理論的バックグラウンドが分かり、とても有意義でした。
  • 酒井さんの講義は私にとってこれからの未来へのワクワク感が高まりました。いろいろなアイデアを駆使しながら私もチャレンジしてみようという気になりました。
  • とてもいい勉強になりました。「建築と子供たち」の教材というかワークショップの内容がデザイン系の勉強にとどまらず、自己表現の練習、社会観察力の育成にもつながる内容であることを改めて理解しました。
  • 参加させていただきありがとうございました。とても勉強になりました。ワークショップ参加者のコメントが本当に参考になりました。
  • 4名の発表者はそれぞれの立場からの観点から実践された内容で、それぞれ特徴があって大変興味を持って拝見しました。
  • 五感を研ぎ澄ませること、立体などの3次元表現、図やスケッチなどの2次元表現、言葉などの1次元表現の意味を発見し、互いにつなぐことが出来ることなど身近な工夫で創造性の世界が開けることが深く確認できました。
  • ワークショップの発表と講評で、次につなげるための意見を聞けてよかったと思います。そして、後半はとても為になる講演でした。今後は、勉強会として、指導者や専門家向けのワークショップとして続けていけるとよいなと感じました。
  • 私は、現在中学生を対象とした模型を使った建築教育の研究を行っています。酒井さんの話を聞いて日々の生活から「観察」、「言語化」、「表現」に関する意識が大切だとよくわかりました。酒井さんは表現と言語化を結び付ける方法として特に工夫されていること何ですか?教えて頂けると助かります。
  • 「言語化する」大事さにとても共感しました。ある方の講演で「語彙力は人生を表す鏡」であると発言されていました。講演内容で写真の説明をされたのですが、平易な言葉で意図することをわかりやすく説明されており、共感が得やすかったことを思い出します。描いたことを動詞化するという分析も、客観的に見返すことができるいい手法だと思いました。貴重なお話、ありがとうございました。
  • アメリカで子供の頃から論理的に説明する訓練が学校教育でなされており、論理的に話せないと良い職が得られないという点が新しい気づきでした。そのため、デザインのプロセスを言語化する訓練がとても重要なのですね。日本とは育てる力の入れどころが違っている点に気づかされました。国語との横断的学習が興味深かったです。
  • オンラインの内容が大変濃い内容になったことがすごくうれしかったです。オンラインワークショップの受講者の方々の多方面からの感想をお聞きし、改めて夏から秋にかけてやれることに挑戦した結果、こんなにいいものになったんだと自覚しました。
  • 貴重な機会に参加させていただきありがとうございました。前回までの三度の受講も大変楽しかったです。
    今回は、建築と子供たちについてや、プログラムのことも知れて、また更に興味がわきました。特に海外(アメリカ)では子どもの頃から【言葉で説明したり、要求を伝える力をトレーニングする】ということに、衝撃を受けました。意見や考えを堂々と話せるのは、気質からくるものだと思っていたので。プログラムを終えた幼児が【話す言葉が増えた】ことにも驚きました。この先、息子や子供たちと触れ合う際には、これらを意識して接したり、遊びの中で取り入れてみたいと思っています。
  • 環境の一部である「自分」と、「社会」をインタラクティブに結び他との関係を構築するために、言語と2Dと3Dを使って表現していく。その術を学んでいく。「一部」の自分はNegative Spaceを含めた他を慮るスチュワードシップを身に着けることが大切。今、大人ばかりでEUの連中と話し合いをする際に、彼らは2Dと言語化が得意なのですが、3D化や非言語化(多言語故の苦労があり、例えばPictgramなどを用いたシンボル化)が苦手で、日本に対しては「我々にはない、独特の感性があって尊敬している」と言ってくれる方も西洋人にはおります。意見交換でもありましたが、大学生どころか、大人にとっても自分の視点を定め視野を広げるデザイン教育としての「建築と子供たち」のプログラムは、世代を超えて有意義なのではないかと、あらためて実感しております。本日はたいへん意義深い貴重な午前の時間を共有させていただき、誠にありがとうございました。
  • ワークショップを体験してからの酒井さんの講義へと繋がる流れは、普段直接あまりワークショップに関係していない私にとっては大変貴重な体験でした。
    酒井さんの講義の中で、ネイティブアメリカンの言葉には「四角」という言葉が無い、概念がなかった、ということに一番驚きました。自然界や生物には、あまり四角いものがないからでしょうか。大きな建物や集落が形成されていくにつれて出てきた概念なのかもしれませんね。
    そういえば、大学時代に聞いたことですが、目の細胞を研究していた生物学科の友人が、ネイティブアメリカンは目のナナメ細胞が発達していると言っていたことを思い出しました。これは、人間の目の細胞は、発達の段階で普通はまず水平を認識するようになり、次に縦の線を認識するようになり、最後にナナメの線を認識できるようになって「奥行き」を獲得するらしいのですが、ネイティブアメリカンは視細胞の出来る順番が少し違うらしく、水平→ナナメ→縦と発達しているらしいということでした。「四角」という言葉が無かったことと併せて、発達上の空間認識が環境によって大きく異なるのだと改めて思いました。同じような事として、日本人の「間」の概念のお話ももう少し詳しく聞いてみたかったです。西洋の文化ではあまり「間」が大事にされないとのお話でしたが、イスラム系の建築では世界最古の大学、アルハンブラ宮殿、塔を四隅に建てることによる聖なる空間を作る手法など、物体そのものよりは、その「あいだ」の「ま」を中心に捉えているのではないかと感じていました。どこでその違いが生まれたのか、文化的な背景を知りたい所です。さらに、酒井さんの言われた日本的な「間」の捉え方が中国経由なのでしょうけれど、そのイスラム系の空間認識の延長にもしあるとすれば、イスタンブールを東洋と西洋の境目にしたことと何か関係が出てくるような気もしましたがいかがでしょう。

酒井敦子さんからのお手紙
10月24日は、お忙しい中お集まりいただき、どうもありがとうございました。新しくご参加いただいた皆さま、はじめまして!懐かしい皆さま、久しくご無沙汰しておりました。2019年以来、コロナで一時帰国もできない状態でしたが、こうして、オンラインでお会いでき、大変嬉しかったです。
そして、ご丁寧にご質問・感想・あたたかいお言葉どうもありがとうございました。いろいろなアイデアや思いがあり、とても参考になりましたし、次は、皆さまの活動内容やアイデアをシェアしていただき、一緒に話し合いたいとも思いました。
ここ2年、付け焼き刃状態ではありましたが、大学でもオンライン教育について学び、体験しました。確かに、対面でしかできないこともたくさんありますが、オンラインの良さも少しわかるようになりました。大阪・仙台チームの皆さまのおかげで、こうして、建築と子供たち関係のオンラインワークショップや交流会の機会が設けられ、お互いの場所に限らない交流も可能になったのは、とても嬉しいことです。
現在は大学の仕事が手一杯で、なかなか建築と子供たち関係の活動まで行き届いていませんが、幼稚園や小中高の子供たちに教えた経験や学びが、医大を目指している学部生を教えるのにも案外通用することもよくあり、どのレベルでも、学びの原点や楽しみというものは、あまりかわらないような気がします。

以下、アンケートでいただいたご質問に関する内容です。

・表現と言語化を結びつける方法について
表現と言語化という行動は、無意識だったものを意識的にし、デザインが意図的なものであることを理解してもらうことです。
私が工夫していることは、プロセスです。同じプロジェクトの中で様々な表現を利用し、そのデザイン過程と思考過程が、参加する子供たちや大人にもいつでも見えるようにしてあげることです。例えば、まだデザインのアイデアが定まっていない時は、ダイアグラムを利用し、皆のアイデアを集めるブレーンストーミングの方法を利用し、文ではなくまずは単語を集めます。
次にデザイン例を参考にしながらスケッチをしたり、コラージュを作ったり、さらに技術的な単語も書いて、イメージと言葉の両方を記録に残します。ある程度アイデアが出てきたら、それをまとめて文にするか、軽く中間発表・批評や話し合いをしてもらいます。
その後実際に平面図やデザインスケッチをし、模型も作ります。模型を先に作った方がわかりやすい時は、できた模型を見てスケッチをしてもらい、プレゼンテーション用の説明文を足していきます。この段階では、プロジェクトやモノに名前や題名をつけて、アイデアをデザインコンセプトに変換し、全ての過程を振り返ってもらいます。
建築家にとってこういった作業は習慣になっているのですが、デザインを経験しことがない人にとってはとても難しいことで、慣れていない人は、まず頭で全部考えてまとまってから見せようとします。でも、それでは考えを共有できませんし、効率が悪いです。つまり大切なのは、プロセスを段階的にし、できる限り多くの次元や表現方法に触れさせることです。そうすることによって、それぞれの子供の強みと弱みが自然と見えてきます。教える側は、子供の段階的な作品を通し、まず子供が何を思って、何をしようとしているか理解し、足りない表現や技術面をサポートすればよいわけです。
さらに他の子供とプロセスを共にすることで、他の子供たちのいろいろな表現方法がよいお手本になりますし、正しい答えや方法があるはずだとこだわっていた子供も、なんだかよくわからないままとりあえずやってみた子供も、全体を見回した時に、共通点もあれば、案外人それぞれだということを理解していきます。
さらに、いくつかプロジェクトができるのであれば、それぞれの学習目的よって、物語をつくってもらったりして想像することを中心にしたり、感覚について学び感情表現と結びつけたり、空間デザインでは機能的なことに注目を向けたり、敷地分析などをシンボルと凡例を利用しコミュニュケーションをとってもらったりと、学びの過程と集中する点に変化をつけることもできます。

・ネイティブアメリカンの言葉に四角がなかったことについて
部族によって違うかもしれません。確かに、自然にできた個体としては、四角はあまり無いかもしれませんね。私の勝手な想像ですが、円は、太陽や切り株などの自然の形があり、モノが朽ちる時は角がとれ、人が輪になって並ぶなど機能的なものとして必要だったのかもしれません。幾何学的な文様はたくさんあるのですが、幾何学という概念がない状態で、外来語をそのまま取り入れたのだと思います。窓という概念も、もとはただの空気穴でしたので、視覚的な窓とは別物で、石・土の文化と木の文化の違いも関わってくるのかもしれません。
目のナナメ細胞の情報どうもありがとうございました、面白いですね。ネイティブアメリカンのツボに描かれたたくさんの斜めの線と、奥行きと聞いた瞬間壮大なスケールのニューメキシコの砂漠を思い出しました。脳科学と教育について講演があり、幼児がアルファベットを学ぶ際に斜めの線の認識が必要だと聞いた記憶があります。
「間」の話も確かに様々な見方ができ、西洋といっても場所によって違うかもしれませんし、イスラム系の空間認識のアイデアも興味深いですね!まだ山ほどわからないことだらけですが、また近いうちに皆さんと交流・会話ができるのを楽しみにしております。

では、皆様お元気で!
酒井敦子

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7月25日からスタートしたオンラインプロジェクトは、3か月の長丁場を乗り越えて、無事終えることができました。これも酒井さんはじめご参加いただいた皆様のおかげです。
酒井さんの、建築と子供たちの理論、意義、体験談、アドバイスなどの貴重なお話や、ご参加の皆様からの示唆に富むご意見とご感想を、今後の活動に生かしていきたいと思っています。
ありがとうございました。 

建築と子供たちオンラインプロジェクト スタッフ一同

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