2021年12月25日土曜日

ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021 ~オンラインでつなぐ建築と子供たち~② 講演 part1

ARCHITECTURE AND CHILDREN ONLINE MEETING 2021
~オンラインでつなぐ建築と子供たち~

2021年10月24日(日) am9:30~11:00 

< 講演「建築と子供たち~創造性を育む教育法について考える~」part1>

酒井敦子さんに、オンラインワークショップのまとめや、2019年に大阪で行われた「はじめての建築と子供たち」の内容も含めて、「建築と子供たち~創造性を育む教育法について考える~」というテーマでお話していただきました。


●これまでのオンライン交流

2000年に、仙台とニューメキシコの子供たちの国際交流の一環としてビデオ会議を行いました。芦口小とモンテズマ小の5年生はお互いにエコハウスをデザインしてきたのですが、その内容を図や模型を見せ合って発表しました。まだスカイプもないころだったので、大学のメディアセンターに行ってつなぎました。

そしてスカイプが導入されるようになって、建築と子供たちの仲間のカタリーナさんが、出身国ボリビアの建築家とアルバーカーキアカデミーのサマースクールの子供たちを結んでスカイプ交流を行いました。

2017年から2019年にかけては、南フロリダ大学のオーナーズカレッジの学生と、仙台の六郷小、立町小、台原小の子供たちがスカイプで交流しています。

オーナーズカレッジというのは、入学してくるトップクラスの学生を様々な学部から集めて学際的な教育を斡旋しているところで、1/3ぐらいは医療系を目指している学生で、その次にエンジニア系の学生が多いので、建築と子供たち自体の内容は行いにくかったのですが、学生の良いところを活かして、また違った交流ができました。

例えば、キャンプについて話すためにテントを持ってきたり、象の歯磨き粉という化学実験をテレビの前で見せたりして、それはそれで面白かったと思います。

そういうわけで、私たちは案外オンライン交流の先駆者でありまして、いろいろなことを長年してきました。


建築と子供たちの哲学:教育学

建築と子供たちはニューメキシコで生まれました。

建築と子供たちゆかりの地ニューメキシコ
アドビ建築やバルーンフェスティバルで知られる

この教育法は、アン・テイラー先生のアリゾナ州立大学での博士課程のころに始まりました。このプログラムは、60年代~70年代の公害や環境問題に目を向けた環境運動にかなり影響を受けています。ですから皆さんは、建築と子供たちで学んできたことが自然とつながっていると感じたと思います。環境というものは、私たちの生活の一部であり、物事の原理や法則を学ぶのに適している、学校では学科をばらばらに学ぶのではなく、まとめて学ぶ方が効率もいいし、学際的なカリキュラムができるのではないか、というところにアン先生は目を向けたのです。
そして、アン先生の専門分野である芸術教育学関係や、ハワード・ガードナーの8つの知能※1、ベンジャミン・ブルームの学びの分類学※2など様々な教育学も取り入れ、スタジオを中心とした創造的な学習環境の必要性も説いています。
現在よく聞くSTEAMをさらに超えた総合的な学習というのをアン先生は探していたと思います。
アン先生はよく、BODY、MIND、SPIRITと言っていますが、それは3つの学習要素のことです。五感などの物理的、感覚的、生理的なものをBODY、論理的な思考や概念的な学びをMIND、文化的な価値観や精神面をSPIRITと表現しました。
環境自体が学びの文脈であることを利用して、環境を使いながら学習内容・学科を学ぶことができる、そしてぐるぐる回りながら3つの要素を鍛えることができるという学びの過程を大切にしています。

※1:人間は、言語的知能、論理数学的知能、空間的知能、身体運動的知能、音楽的知能、対人的知能、内省的知能、博物的知能の8つの知能を持つという多重知能論
※2:観察と感覚的な発見、コンセプト形成とスキル習得、創造的問題解決、価値評価、スチュワードシップを繰り返し、学習者は物理的環境での発見を観念/思想に変換していく学びの過程をシステム化したもの

● 歴史的背景と流れ
建築と子供たちは、80年代にはプログラムとして成立し、85年にスクールゾーンインスティテュートが設立され、87年にカリキュラムポスターができ、91年には教師用のガイドブックもできました。同じ頃、ドリーン・ネルソン先生のCity Building Educationなど他のプログラムもできて、2000年ごろには、ウェブやネットワークの普及でアメリカ各地のプログラムや世界の様子もわかるようになってきました。
そして、2019年に、アン先生がアメリカ建築家協会で、AIA Collaborative Achievement賞を授賞され、それをお祝いした矢先、コロナがやってきて、建築と子供たちのプログラムを体験できるオンラインビデオができました。

●プログラムの基本構成
実際のプログラムの内容は表1のようなものがあります。基本的な視覚言語とコミュニケーションからはじまって、パターンになり、少しずつ複雑になっていくというのが基本型です。また、それぞれのプロジェクトが違ったり、目的が違ったり、教える人によって発展していって複雑なものもたくさん出てきます。オンラインビデオは基本型のものがメインに入っています。皆さんのオンラインワークショップは基本型のはじめの方のものですね

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 基本型
  ・視覚言語とコミュニケーション 
  ・デザインを整理する原理と自然のパターン
  ・断面図の基礎、スケールと抽象画
  ・建築の決まり(平面図、立面図、断面図)
  ・建築模型作り ・構造デザイン
 応用型
  ・サスティナブル ・複雑な構造 
  ・文化的内容(歴史的建築保存など)
  ・インテリアデザイン ・都市デザイン
  など、もう少し複雑な内容を入れ込む
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    表1 プログラムの基本構成

例えば、禅タングル、それ自体は建築と子供たちにはありませんが、線描画を使って技術を身につけ、視覚でコミュニケーションを図る可能性を学びます。線にはいろいろなものがあり、それによって深さも違うし、奥行きも出てくる。さらに、表面を処理すると3次元ができます。そういうことを少しずつ学んでいかなければならない。言葉も大切ですが、視覚的コミュニケーションも大切です。

線描画「禅タングル」で、線や面の技術を身につけ、視覚的コミュニケーションを学ぶ


●空間の構成について       
その次に空間の構成について学びます。ポジティブフォームとネガティブスペースという2つの空間の要素に気づくことの大切さも学びます。ポジティブフォームとネガティブスペースというのは案外難しいのです。
建築というのはモノとして見ると、壁とか触れるものをいろいろ組み合わせてつくられています。でも体験しようとすると、空間としての建築体験というのが大切で、そこを考えないと建築デザインというのはできません。
日本では、「間」というコンセプトがあるので、わかりやすいと思うのですが、西洋では、「間」という考え方があまりなくて、芸術学やアートに入っているから学ぶわけで、それをポジティブフォームとネガティブスペースとして学んでいます。
9-11メモリアル※3や光の教会※4は、ネガの部分をうまく利用した良い例ですね。
なぜこれを学ばないといけないかというと、私たちの脳の仕組みにも、哲学のゲシュタルト論5にも関係しています。 
有名なウサギとカモの絵は、目と脳の関係で、ウサギに見えることもあるし、カモに見えることもあります。ウサギとカモは交互には見えやすいですが、両方一緒となると難しいのです。建築でもポジとネガを平等に見るという事は難しい。だから頭のトレーニング、デザインのトレーニングをするのです。
2017年、六郷小学校では、道をデザインしたとき、ゲシュタルト論5を利用して、道自体を強調したものと道の周りを強調したものとを、5年生に交互にデザインしてもらい、それらを一緒に並べて、ポジとネガのコンセプトを学んでもらいました。

六郷小学校「道のデザイン」
道を強調したグループ、道の周り強調したグループに分かれてデザインし、ポジネガのコンセプトを学びました


※3:世界貿易センター跡地に犠牲者を追悼する施設として作られた。センターが建っていた場所に、地下深く切り込まれた空間は、空や周囲と一体になってネガティブスペースを構成している。

※4:安藤忠雄設計の教会。ポジティブな物体でデザインされるのが一般的な十字架を、壁に十字に穴を開けて、そのネガティブスペースから差し込む光を十字架として見えるようにデザインされている。
註5:ゲシュタルト論は、人間の脳は特徴を捉え見たいものを見るようにできているという理論。また、触れる物をポジティブ、物と物の間の空間をネガティブとしている。


●立体化:2次元から3次元へ
アン先生は、デザインパターンというものが、自然のパターンを利用したデザインで、物事を整理する、頭を整理するための方法「Organizing Principle(構成的原理)」であると言っています。この原理、デザインパターンを学びながら、紙を利用して、モノの立体化の面白さも少しずつ体験していきます。
さらに、それを応用して、街並みやファサードのデザインに利用することもできます。


●創造性を育む:想像する、創るという行動とは?
想像する、創るという行動とはどんなことだろうということを、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。私たちは、こういったことを深く考えずに無意識に行動しています。
それを言語化したのが、彫刻家のリチャード・セラです。彼は、自分がやっている彫刻という行動についていろいろ考えてそれを言葉にしてみました。それが動詞のリストです。
ここで、皆さんも参加できるよう、画面の内容を変えます。今回は、グーグルジャムボードを利用します。可能でしたら参加ください。うまく開けなければ、見るだけで、声をかけてくださっても良いです。
ジャムボードは、大学のオンライン授業で学生が参加できるようによく利用しています。ここでは、セラの動詞リストを使ってポジネガでどんな行動をしているかを、皆さんにチェックしてほしいと思います。
ワークショップに参加した方は、自分がどんな行動をしたか、参加していない方は自分だったらどんな行動をするかを考えながらリストにチェックマークをつけていってください。
こうすることによって、自分の行動とか子供たちの行動をしっかり見極めることができます。そしてそれをいかに言葉にしていくかということがとても大切なことです。特にアメリカの場合は、論理的に話せるとか、例えば建築の授業とかで、どうしてこんな形なのかとか、どうしてここにこんなスペースがあるのか聞かれますし、あとは仕事をもらってくるときに、うまく話せない人はたくさん仕事がとれないのです。ですから、子供たちも体験したことを言葉にできるというのがとても大切です。幼稚園でもいろいろな言葉を教えたりします。例えば、何枚紙を切ってください、というときに何枚としっかり数を言う、その数に合うように教える、そういうことを心がけています。
視覚言語も大切ですが、それを言葉に戻すという思考能力の訓練もとても大切です。
動詞リストは、そういう面で面白いと思い、建築と子供たちとは直接関係ないのですが、ここで取り上げました。

ジャムボードを使って、ポジネガの作品を作るとき、どのような行動をしたのか、動詞リストから選んでもらいました。「広げる」「切る」「回転させる」「折りたたむ」「接合する」「集める」「調整する」「異なるようにする」「とりこむ」「乱す・崩す」など、チェックマークが次々につけられていきました


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